【現場の言葉】1メートルは1命取る ―「低いから大丈夫」がいちばん危ない

1メートルは1命取る(低いから大丈夫、がいちばん危ない) 現場の言葉

今日の言葉は、語呂合わせみたいなのに、ちっとも笑えない一言です。

「1メートルは1命取る」。読み方は「いちメートルは、いちめいとる」。

「1メートル」と「一命(いちめい)取る」をかけた、現場の安全標語です。初めて聞いたときは「うまいこと言うなあ」くらいに思っていました。でも、意味が分かってくるほど笑えなくなる言葉なんです。今日はこの言葉を、現役の工場勤務をしている私なりの受け取り方で、みなさんにお届けします。

「1メートルは1命取る」ってどういう意味?

意味はそのままで、「たった1メートルの高さでも、落ち方によっては命を落とす。低いからといって甘く見るな」という戒(いまし)めです。

誰がいつ作った言葉なのかは、調べても分かりませんでした。ただ、安全の世界では「安全担当の人なら必ず聞いたことがある」と言われるくらいの定番で、中災防(ちゅうさいぼう/中央労働災害防止協会)の安全ポスターの標語になっていたり、労働基準監督署が「合言葉は『1mは一命取る』運動」というキャンペーンを張っていたりします。つまり誰かの思いつきではなく、国や業界団体も本気で使い続けている言葉なんですね。

「いやいや、1メートルですよ? 飛び降りても平気な高さじゃ……」と思いますよね。私も最初はそっち側でした。そこで、私がいちばん納得した理屈をひとつ。

高さ1メートルに立つと、頭の位置は「1メートル+身長」になる。身長170cmの人なら、頭は約2メートル70センチの高さです。

足元は1メートルでも、頭はいつも「その高さ+身長」から落ちてくる。中災防のポスターにも「脚立の高さは1mでも、頭は脚立の高さ+身長から落ちることになります」と書かれています。バランスを崩して頭から落ちたら、2メートル70センチの高さから落ちる「いちばん大事な荷物」は、自分の頭。そう考えると、1メートルの見え方が少し変わってきませんか。

足元は1メートルでも、頭は1メートル+身長=約2メートル70センチの高さから落ちるという図解
足元は1メートルでも、頭はいつも「その高さ+身長」にあります。落ちてくるのは、いちばん大事なところです。

数字で見ても、墜落・転落は「死亡災害の1位」

厚生労働省の最新の確定値(令和7年=2025年)によると、労働災害で亡くなった方は全国で700人。過去最少でした。それでも、事故の型別でいちばん多いのは「墜落・転落」の186人。交通事故(道路)の126人よりも、機械へのはさまれ・巻き込まれの117人よりも多い、1位です。

「でもそれは、ビルの足場みたいな高いところの話でしょ?」——そう思うじゃないですか。ところが、です。ある労働局(福井)が過去に公表した管内の集計では、墜落・転落災害109件のうち90件が「高さ2メートル未満」からの墜落でした。しかもそのうち1件は、高さ約1メートルの脚立からの墜落による死亡災害です。

トラックの荷台(約1メートル)から後ろ向きに落ちて、頭を強打して亡くなった方の事例も、労働災害の記録に残っています。はしごや脚立からの墜落・転落では、少し前の集計ですが、毎年30人近くの方が亡くなっていました(平成23〜27年)。1メートル前後は、決して「死なない高さ」ではないんです。

これは私自身、現場でよく思うことでもあります。工場の中って、いろんなものが置いてありますよね。機械、設備、材料、台車、治具(じぐ)——つまり、落ちた先が、まっさらな床とは限らない。私は2段の踏み台に乗るときでも、「ここで踏み外して、当たりどころが悪ければ、重大な事故になるな」と思ったことがあります。高さの数字だけでは測れない怖さが、工場の「低いところ」にはあるんです。

職場にある1メートルの図解。脚立・トラックの荷台・踏み台、どれも命に関わる高さ
脚立、荷台、踏み台——職場の「1メートル」はどこにでもあります。そして落ちた先は、まっさらな床とは限りません。

法律の義務は「2メートルから」。でも、体は「1メートルから」壊れる

実は、労働安全衛生規則で作業床や手すりといった墜落防止の措置が義務になるのは、原則「高さ2メートル以上」の作業からです(安衛則第518条・第519条。ちなみに1.5メートルを超えると、安全に昇り降りするための設備の義務もあります=第526条)。

ここに、この言葉の核心があると私は思っています。福井労働局はこう指摘しています——2メートル以上の作業は法令の義務もあり、高さへの恐怖感から本人の危険意識も高まる。ところが2メートル未満、特に1メートル前後の作業では、危険意識が甘くなりがちで、安易な作業方法を取ってしまう。それがこの種の災害の原因になっている、と。

怖い高さでは、人は勝手に慎重になります。怖くない高さでこそ、人は雑になる。だからこそ「1メートルは1命取る」という言葉が、わざわざ生まれて、言い継がれてきたんだと思います。

念のため付け加えると、法律も「2メートル未満なら放っておいていい」とは言っていません。会社には、高さに関係なく、働く人の安全に配慮する義務があります(労働契約法第5条)。低いところの安全は「法律で細かく決まっていないからこそ、現場の心がけと会社の気配りの両輪で守る」ゾーンなんですね。

私が気をつけている、3つの「低いところ」

では、私がこの言葉をどう自分持ちしているか。身のまわりの「1メートル」で気をつけていることを、3つだけ書いておきます。

  1. 脚立・踏み台では、頭の高さを意識する。乗る前に一呼吸おいて「いま、頭は2メートル半にある」と思うだけで、体の動きが変わります。ヘルメットのあご紐(ひも)も締め直します。国のリーフレットも「高さ1m未満の作業でも、墜落時保護用のヘルメットを」と呼びかけています。
  2. トラックの荷台や機械の上では、まわりに一声かける。先ほどの荷台の事例は、運転手が「上に人がいる」と気づかないまま車を動かしたことがきっかけでした。「乗ります」「降ります」の一声が命綱になります。
  3. 「ちょっとだけだから」で、飛び乗らない・飛び降りない。急いでいるときほど出る横着です。私は心の中で「1メートルは1命取る」と唱えて、面倒でもきちんと足場を使って昇り降りするようにしています。

どれも地味です。でも、こうした一手間に加えて、そもそも脚立を使わずに済む作業方法や、安定した作業台を選ぶことも大切です。

それにしてもこの言葉、先日ご紹介した「42ボルトは死にボルト」とそっくりの構造だと思いませんか。42ボルトは「低い電圧を甘く見るな」、1メートルは「低い高さを甘く見るな」。現場の言葉は、「小さい数字」にこそ牙があることを、ずっと前から知っているんです。

高いところが怖いのは、体が勝手に自分を守ってくれている証拠です。問題は、怖くない低いところ。そこでは、言葉で自分を守るしかありません。脚立に足をかけたとき、荷台にひょいと乗りたくなったとき、頭の中でつぶやいてみてください——「1メートルは、1命取る」

【出典】厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況」(確定値・令和8年5月公表)厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「はしごや脚立からの墜落・転落災害をなくしましょう!」(平成29年3月)福井労働局「高さ2メートル未満の作業場所からの墜落・転落災害が多発しています」、北九州西労働基準監督署「STOP!墜落・転落災害 合言葉は『1mは一命取る』運動」(令和4年8月)、中央労働災害防止協会 安全衛生ポスター「1mは一命取る」、労働安全衛生規則第518条・第519条・第526条、労働契約法第5条。事例は公表資料に基づき、個人が特定されないよう一般化して記載しています。

・クレーン・玉掛けの「落ちる」対策はこちら →「【玉掛け・クレーン作業】吊っているものは落ちる、を合言葉にする理由

・工場・現場の安全対策のまとめ →「【保存版】工場・現場の安全対策まとめ

この連載「現場の言葉」の他の記事は、こちらの一覧からどうぞ。現場で受け継がれてきた言葉を、私なりに少しずつ書きためています。

以上、ご安全に!!

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