こんにちは、もこです。
これは、前の職場にいた頃に教わった言葉の話です。
「死にボルト」という言葉を最初に聞いたのは、前の職場の先輩からだったか、危険を体感できる教育施設で教えてもらったからだったか、正直、はっきりとは覚えていません。ただ、「死にボルト」というインパクトのある響きだけを聞いて、そこから意味を教えてもらった記憶があります。
教育がしっかりしていたからなのか、その工場にいれば、この言葉はほぼ誰でも知っているようなものになっていました。
「42ボルトは死にボルト」
電圧の低さを、安心材料にしてはいけない
「42(しに)」にかけた語呂合わせです。現場では、こうして数字と言葉をかけ合わせて、危険を忘れないようにする言い回しがよく使われます。
家庭用のコンセントは100V。それに比べれば、42Vなんて「大したことなさそう」に聞こえます。私自身、正直そう思っていた時期がありました。
でも、現場で繰り返し教わったのは、電圧の高い・低いだけで安全か危険かを判断してはいけない、ということでした。

感電の危険度を決めるのは、電圧そのものというより、体に流れた電流の大きさと、流れていた時間、そしてどこを通ったか、なのだそうです。厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」には、人体への影響が次のようにまとめられています。
| 電流値 | 人体への影響 |
|---|---|
| 0.5〜1mA | 最小感知電流。「ピリッと」感じる程度で、危険性はない |
| 5mA | 相応の痛みを感じる、人体に悪影響を及ぼさない最大の許容電流値 |
| 10〜20mA | 離脱の限界。筋肉が動かせなくなり、握った電線を離せなくなる |
| 50mA | 気絶や心臓の律動異常が起こり、心肺停止の可能性も出てくる |
| 100mA | 心室細動が発生し、極めて危険な状態になる |
出典:職場のあんぜんサイト「感電[安全衛生キーワード]」(厚生労働省)
同じサイトには、汗や水で肌が濡れていると電気抵抗が下がり、体に電気が流れやすくなることも書かれています。工場で使われている漏電遮断器の多くは、30ミリアンペア・0.1秒という、ごくわずかな電流と時間で作動する高感度・高速形が使われているそうですが、それだけ短い時間でも守りきれない場面がある、ということでもあります。
そしてもうひとつ、現場で強く言われたのが、「この電圧なら安全」という基準は、実は法律のどこにも存在しない、ということでした。労働安全衛生法や労働安全衛生規則を見ても、「安全電圧」というような基準は定められていません。法令上、交流600Vを境に「低圧」と「高圧」が分かれます(直流は750V)が、これはあくまで扱う人にどんな教育が必要かを分けるための区分であって、「低圧だから安全」という意味ではないのです。
実際、労働安全衛生総合研究所が平成15〜24年(2003〜2012年)の10年間の感電死亡災害173人を分析した結果では、低圧(交流600V以下)での死亡者が105人と、全体の約61%を占めていました。高圧での死亡者(56人・約32%)より多かったそうです。42Vという数字そのものに、何か特別な医学的根拠があるわけではないようですが、「低い電圧を甘く見てはいけない」という教えそのものは、データの裏付けがある話だったんですね。
出典:労働安全衛生総合研究所「最近の感電死亡災害の分析と今後の対策」
触れていいのは、教育を受けた範囲だけ

私は、ブレーカーの入切、機械の電源、コンセント、配電盤の中のチェックなど、電気に関わる作業もひととおり担当していました。そのために受けていたのが、低圧の電気を扱うための特別教育です。
正式には、労働安全衛生法第59条第3項・労働安全衛生規則第36条第4号に基づく特別教育で、「低圧電気取扱業務特別教育」と呼ばれています。現場では単に「低電圧」と呼んでいました。これは「取得」というより「修了」という位置づけで、国家資格ではありません。設備そのものを「工事する」電気工事士の資格とはまた別物で、あくまで決められた範囲の電気を「取り扱う」ための教育です。私のいた職場では、これは全員が受ける決まりで、必要に応じてさらに上の「高圧・特別高圧電気取扱特別教育」(現場では「高電圧」)を受けに行く人もいました。
だからこそ、はっきり言えることがあります。電気に触れていいのは、その教育を受けた範囲だけです。「たぶん大丈夫だろう」で済ませていい話では、そもそもないんです。
フックに触れた瞬間、手がプルプル震えた
教育を受けていても、危険がゼロになるわけではありません。私自身、忘れられない経験があります。
クレーンのフックに触れた瞬間、手がプルプルと震えたことがありました。クレーンが漏電していたのか、漏電遮断器そのものが壊れていたのか、正直、はっきりとした原因までは分かっていません。ただ、すぐに報告して、そのクレーンは使用中止にしたうえで、修理してもらいました。
漏電遮断器というのは、漏電が起きたときに自動で電気を止め、感電を防いでくれる装置です。少し話は逸れますが、労働安全衛生総合研究所の分析では、クレーンを使った作業中に送配電線などへ接触してしまう感電災害も報告されているとのことでした。クレーンという、金属のかたまりを日常的に扱う作業だからこそ、電気とは思っている以上に近い距離にあるんだと、あの震えで実感しました。
クレーンそのものの基本については、以前玉掛けの記事でも書きましたので、良ければあわせてどうぞ。
過去の災害を、みんなで振り返る文化
フックの一件だけでなく、これまで工場で聞かされてきたのは、電気の怖さを”体感”として刻み込む文化でした。
私が入る前に、実際に起きてしまった重大な災害についても聞かされていましたし、安全週間や、会社が独自に設けていた「安全の日」には、その災害を振り返る機会がありました。詳しい内容をここで書くことはしませんが、そうやって過去の出来事をくり返し語り継ぐことが、電気の危険性を現場に浸透させていたんだと思います。
以前、安全週間の記事でも書きましたが、私のいた前の職場には、危険を体感できる施設(危険体感)があり、私は積極的に通っていました。頭でわかっているつもりでも、実際に「危ない」を体で感じると、意識がまるで変わります。42Vという数字も、そうやって体と記憶に刻み込まれていったものの一つだったんだと思います。
おわりに
家庭用の100Vは安全で、それより低い電圧ならなおさら安全。そう思い込みそうになりますが、現場で教わったのはまったく逆でした。電圧の高い・低いだけでなく、電流の大きさ、流れた時間、体のどこを通ったか、そして汗や水で濡れていないか――そういういくつもの条件が重なって、危険度は変わります。そして、電圧が低いからといって安全とは限らず、実際には低圧(交流600V以下)のほうが高圧よりも死亡者数が多いというデータもあるのです。
今も現場に立つ身として、ブレーカーやコンセントに触れるたびに、この言葉をふと思い出します。触れていいのは、教育を受けた範囲だけ。42Vだから、100Vだからと油断せず、「死にボルト」という言葉のインパクトを、これからも忘れずにいたいと思います。
電気設備の点検については、連休前の重点チェックの記事でも触れていますので、興味があれば覗いてみてください。
出典
- 職場のあんぜんサイト「感電[安全衛生キーワード]」(厚生労働省) https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo74_1.html
- 労働安全衛生総合研究所「最近の感電死亡災害の分析と今後の対策」(2016) https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2016/88-column-1.html
- 労働安全衛生法 第59条第3項(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057
- 労働安全衛生規則 第36条第4号・第333条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032
あわせてどうぞ
この連載「現場の言葉」の他の記事は、こちらからどうぞ。現場で受け継がれてきた言葉を、私なりに少しずつ書きためています。
以上、ご安全に!!





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