先輩から教わった言葉で、今でも印象に残っているものがあります。
「段取り八分、仕事二分」
機械加工の現場にいると、不思議に思うことがあります。
プログラムがある程度できていれば、実際に削っている時間そのものは、本来そんなに変わらないはずなんです。
でも、同じ仕事をしているはずなのに、先輩は私より何時間も早く終わる。
最初はその理由が、まったく分かりませんでした。
先輩が「何時間も早い」理由は、削る前に決まっていた
よく見ていると、先輩の速さには大きく二つの肝がありました。
一つは、機械の段取りそのものが早いこと。クレーンでの吊り込み、ワークの締め付け、使う工具の準備——その一つひとつに迷いがなくて、手が止まらないんです。
もう一つは、加工の中身。無駄なパスを減らしたり、切削条件をそのワークに合うように整えていたり。同じものを削っていても、削り方が洗練されているんですね。
そして一番の肝は、それを「考えているタイミング」でした。先輩は、今の製品の送りがかかって機械が動いている、あの待ち時間に、次の製品図面をじっと見ている。図面を見て段取りを組み立て、図面とプログラムを突き合わせておく。そうすると、工具の準備も、パスの修正も、切削条件の変更も、次の製品が来る前にあらかた終わっているわけです。
「先輩みたいに早くやりたいな」とずっと思っていた頃に、少しご年配の先輩から、こんな話を聞きました。
「仕事ってのは昔から、段取り八分っていってな」
早くやる、というのは、焦ってやることじゃない。事前にできる準備を整えて、無駄な作業が出ないようにしておく。
その習慣を身につけるきっかけになった言葉でした。
これは「速さ」だけじゃなく「安全」の話
段取り八分は、ただ仕事を早く終わらせるための言葉だと思われがちですが、私はこれは安全の話でもあると思っています。
焦りや、行き当たりばったりは、そのまま事故の入り口になります。準備不足のまま作業に入ると、「あの工具どこだっけ」と慌てて探したり、無理な体勢でワークを締めたり、手順をすっ飛ばしてクレーン作業に入ったり——その一つひとつが、ヒヤリとする場面につながります。
逆に、段取りがきちんと組めていると、次に何をするかが頭の中で見えているので、動きに無理がありません。吊り込みの手順、締め付けの確認、工具の置き場所。先に決めておくことは、危険の芽を先に潰しておくこと、そのものなんですよね。
ちょうど今の時期は、7月の頭に全国安全週間(7/1〜7/7)もあります。焦って事故を起こすより、段取りよく、確実に。段取りができている現場は、やっぱり安全な現場だなと感じます。
言葉が、仕組みになって受け継がれていく
「段取り八分」は、それこそ昔から現場で言われ続けてきた言葉です。今は、その中身がKY(危険予知)や作業手順書、標準作業といった「仕組み」になって受け継がれています。作業の前に、みんなで段取りと危険を確認する——形は変わっても、根っこにあるのは「準備が八分」という、同じ一点です。
第1作で書いた「きれいな現場は、安全な現場」とも、地続きだなと思います。挨拶や掃除と同じで、段取りも、特別な技術がなくても、意識すれば今日からできること。そしてそれが、自分と仲間の身を守ることにつながっています。
削る腕は、これからゆっくり上げていけばいい。でも段取りだけは、図面を見るほんの一手間で、誰でも今日から八分に近づけます。
以上、ご安全に!!




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