「あっ」と思った時には、もう手袋の先がワイヤーとワークの間に挟まっていました。作業に夢中になっているうちに、いつのまにか手がワイヤーのそばに寄っていて、少しテンション(張り)をかけた瞬間に、ジワッと挟まれる感覚。幸いケガにはなりませんでしたが、今でも思い出すとヒヤッとします。
私は工場で、玉掛け(たまがけ・荷物にワイヤーやスリングを掛けて、クレーンで吊れる状態にする作業)の技能講習と、クレーン・デリック運転士免許(クレーン限定)、両方の資格を持って現場に立っています。前職では小さな部品から、クレーンがないと動かせないような大物まで色々な荷を吊ってきましたし、今の職場でも重くても2トンくらいまでの荷を扱っています。それでも、資格を持っているからヒヤリがゼロになるわけではありません。今日は、その正直な話も含めて、玉掛け・クレーン作業の基本を整理してみます。
「吊っているものは落ちる」という前提
私が前職で教わった中で、一番腹に落ちている言葉があります。先輩から言われた「吊っているものは落ちる」というひと言です。
当たり前のようで、これが現場の判断に染みついていない場面は意外とあります。「落ちるかもしれない」ではなく、「落ちるものとして扱う」。この前提に立つと、これから紹介する基本動作のひとつひとつが、「なぜそうするのか」まで含めて腑に落ちてきます。下に入らない、時間を短くする、事前に検討する——どれも「万が一落ちても、人に当たらない・被害を最小にする」ための行動です。
もうひとつ、同じ先輩から教わった言葉があります。「作業をやる前に検討をして、何をやるか明確にして、吊る時間を短くしろ」。吊っている時間が長くなるほど、荷が動いたり、ワイヤーが緩んだり、人が下を通ったりするリスクにさらされる時間も長くなります。段取りで時間を削ることが、そのまま安全につながるという教えです。
資格の整理 ―― 「資格は入口」
まず資格の話を簡単に整理しておきます。判断の基準になるのは「運ぶ荷の重さ」ではなく、クレーンのつり上げ荷重(能力)です。
- 玉掛け:つり上げ荷重1トン以上のクレーンで使う場合は「玉掛け技能講習」が必要。1トン未満なら「玉掛けの特別教育」(学科5時間以上+実技4時間以上)でも可。
- クレーン運転:つり上げ荷重5トン以上は「クレーン・デリック運転士免許」(床上操作式なら技能講習でも可)。5トン未満は「クレーンの運転の特別教育」(学科9時間以上+実技4時間以上)。
玉掛けとクレーン運転は別の資格です。荷に玉を掛けて、自分でクレーンを操作して吊り上げる、という一連の作業をひとりでやるなら、両方が必要になります。
ただ、ここで強調したいのは「資格があれば安全」ではないということです。資格はあくまで入口。最低限の知識を担保するものであって、そこから先は現場のルール・声かけ・点検の積み重ねがなければ安全にはなりません。実際、この後にお話しする私のヒヤリも、資格を持った状態で起きたことです。
現場の基本動作

資格を持ったうえで、現場で体に染み込ませておきたい基本動作を並べてみます。
- 吊る前に検討する。先輩の言葉どおり、「何を・どこに・どう吊るか」を吊る前に頭の中で(できれば声に出して)整理しておきます。荷の重さの見当をつけておくのも大事な準備のひとつです。以前、金属の重さをざっくり目測する方法をまとめた記事も書いたので、あわせて読んでみてください。
- 固定・締め付けを確認する。吊り具側の掛かりが確実かどうかに加えて、ワークがまだ機械や治具に締め付けられたままになっていないか(固定が解除されているか)も、吊る前のひと呼吸で必ず確認します。私自身、機械の締め付けを解除しないまま吊り上げようとしてしまったヒヤリがあるので、これは実感を込めて言えます(後ほどお話しします)。
- 地切り(じぎり)でいったん止める。「地切り」とは、荷を床からわずかに浮かせたところでいったん停止し、重心やワイヤーの掛かり具合、荷振れがないかを確認する動作です。厚生労働省の通達でも、玉掛け者が行うべき事項として「地切り時につり荷の状況を確認し、必要な場合は再度着地させて玉掛けをやり直す」ことが明記されています。現場では「少しだけ浮かせて、いったん止めて確認する」くらいの感覚で教わることが多いですが、この高さの目安は法令の数値ではなく、現場ごとに教わるものだと理解しておくとよいと思います。
- 吊り荷の下に入らない。つり荷や旋回範囲の下への立ち入りは禁止されています。「早く終わらせたい」時ほど、つい荷の近くを通りたくなりますが、「吊っているものは落ちる」の前提に立てば、下を通らない一択です。
- ワイヤーに手を添えない。クレーンが動いている間、つり荷やワイヤー・スリングなどの玉掛用具に直接触れないこと。これは厚生労働省のガイドラインにも明記されている禁止事項です。「ちょっとくらい支えたほうが安定するのでは」という気持ちが一番危ないと、私自身のヒヤリで学びました。
- 吊る時間を短くする。段取りを整えて、迷わず、無駄なく吊る。吊っている時間が短いほど、リスクにさらされる時間も短くなります。
私のヒヤリ3連発
偉そうに基本動作を並べましたが、資格を持っていても、現場に出ればヒヤリはゼロになりません。正直に3つ、共有します。
①機械の締め付けを解除しないまま吊ろうとした
機械段取りの締め付け(ワークを機械に固定しているクランプ)を解除しないまま、吊り上げようとしてしまったことがあります。固定されたままのワークをクレーンで引っ張れば、機械や吊り具を壊しかねません。幸い、吊り上げる前に気づけましたが、思い込みで作業を進めると確認がひとつ飛ぶのだと痛感しました。「確認は工程の一部」、これに尽きます。
②ワイヤーとワークの間に手袋が挟まった
冒頭でお話ししたヒヤリです。作業に夢中になっているうちに手がワイヤーの近くに寄ってしまい、少しテンションをかけた瞬間に、手袋の先が挟まりました。「作動中は直接触れない」という基本、頭ではわかっていても、夢中になると体のほうが近づいてしまうことがあります。
③ボタンを押し間違えた
クレーン操作のボタンを押し間違えて、挟まれそうになったこともあります。このときは微動(インチング)操作——ボタンを短く小刻みに押して、荷をゆっくり少しずつ動かす操作——をしていたので、大事には至りませんでした。普段からゆっくり動かす操作を徹底していたことに、このとき何度も助けられたと思います。
まとめ ―― 落ちる前提で、今日から

玉掛けもクレーン運転も、資格を取ってからが本当のスタートです。「吊っているものは落ちる」という前提に立てば、下に入らない・手を添えない・吊る時間を短くする、といった基本動作は、どれも「なぜそうするか」まで含めて腑に落ちてきます。
私自身、資格を持って何年も現場に立っていますが、それでもヒヤリはあります。だからこそ、型を体に染み込ませて、毎回同じように確認する習慣が大事なのだと感じています。一緒に、今日からできることをひとつずつ積み重ねていきましょう。
【主な出典】厚生労働省 基発第96号「玉掛け作業の安全に係るガイドラインの策定について」(平成12年2月24日)/クレーン等安全規則(e-Gov法令検索)/クレーン取扱い業務等特別教育規程(昭和53年労働省告示第107号)。
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以上、ご安全に!!





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