先輩から教わった言葉で、今でも印象に残っているものがあります。
「ベテランと新人で変わらないのは、挨拶と掃除だ」
工場に入ったばかりのころは、当然ですが何ひとつできません。機械の名前も、工具の使い方も、段取りも、ぜんぶ先輩に教わりながら少しずつ覚えていく。技術の差は、それこそベテランと新人で天と地ほど開いています。
でも、挨拶と掃除だけは違う。これだけは入ったその日から、ベテランと同じ土俵に立てるんです。技術ゼロでもできて、しかも誰がやっても同じだけ効く。だから昔から、この二つは大事にされてきたんだろうなと思います。
「当たり前にできること」の大きさに、あとから気づいた
正直に言うと、教わった当時から、この言葉の重みが本当に分かっていたわけではありません。腹に落ちたのは、もっとあとです。
きっかけは、新しく入ってきたばかりで、まだそのあたりが身についていない人を何人か見たときでした。といっても、私自身も最初はそうでした。緊張で返事が小さくなったり、慣れない作業で掃除が後回しになったり。「あれは自分も通った道だな」と思うのと同時に、逆に「当たり前にできること」の大きさが、くっきり際立って見えてきたんです。
私もとくに意識して身につけたわけではなく、たまたま続けてきただけです。だからこそ偉そうに言える話ではまったくなくて。むしろ「技術と関係なく、誰でも今日からできて、しかもちゃんと効く。だから昔から大事にされてきたんだな」と、そこでようやく腹に落ちた感じでした。
これは「気持ち」だけじゃなく「安全」の話
ここが一番伝えたいところなんですが、挨拶と掃除は、気持ちのいい職場をつくるためだけのものじゃありません。私の実感では、まるごと安全の話なんです。

挨拶は、相手の体調や様子の変化に気づくきっかけになります。「今日ちょっと顔色悪いな」「いつもより声に元気がないな」。普段から声を掛け合える関係ができていると、いざというときの「危ない!」のひと声がとっさに出る。声をかけ合わない現場では、これがなかなか出ないんです。
掃除と整理整頓も同じです。床にこぼれた油や水は転倒のもと、通路に置きっぱなしの物はつまずきのもと。工具が定位置にないと、探すうちに無理な動きをして事故につながる。きれいに片づいた現場は、「いつもと違う」という異常にすぐ気づける。事故の芽を、起きる前に摘んでおけるわけです。
言葉や仕組みになって、受け継がれていく
私が前の職場に入ったときには、もう「5S」や「3定(さんてい)」という言葉が当たり前に浸透していました。
5Sは、整理・整頓・清掃・清潔・しつけの頭文字をとったもの。3定は、ものの「定位置・定品・定量」、つまり置く場所と種類と数をきちんと決めておこう、という意味です。難しそうに聞こえますが、やっていることは結局、あの「掃除と片づけ」と地続きなんですよね。


昔は口伝えや背中を見て教わったことが、今はこうして言葉になり、仕組みになって受け継がれている。形は変わっても、根っこにある「きれいな現場は、安全な現場」という一点は、ずっと変わりません。
技術はこれからゆっくり身につければいい。でも挨拶と掃除だけは、今日から誰でもベテランと同じようにできる。そしてそれが、自分と仲間の身を守ることにつながっています。
以上、ご安全に!!

コメント