スポーツで腰を痛めたことがあります。動けなくなるとはこういうことか、というくらい、本当に何もできませんでした。しかも、思っていたよりずっと長引きました。「腰」という字は、「にくづき」に「要」と書きます。体の要と書くだけあって、一度やられると、日常生活の全部に響いてくるんですよね。
幸い、仕事中に腰を痛めたことはありません。ただ、あのときの記憶があるので、重量物(じゅうりょうぶつ。重たい部材や工具などのこと)を持つときには、無理をしないこと、そして姿勢には気をつけています。工場には、重い物を持つ場面があります。今日は、腰への負担を減らす持ち方と、そもそも「持たない」ための工夫について、指針の目安も交えて整理しておこうと思います。
この記事でわかること
- 労災統計で見る、「動作の反動・無理な動作」の件数と腰の負傷
- 「こんなのも持てないのか」と言われた時代と、指針が示す今の目安
- 腰への負担を減らす持ち方の基本と、そもそも「持たない」ための工夫
- 重い物を持つ前に、まず重さを知る方法
「動作の反動・無理な動作」は、工場でも他人事じゃない
厚生労働省が公表した令和7年の確定値によると、休業4日以上の死傷者数を事故の型別に見たとき、全産業で2番目に多いのは「動作の反動・無理な動作」で、22,166人でした。重い物を持ち上げたときのぎっくり腰のような、腰の負傷が多く含まれるとされる型です。全産業で最も多いのは「転倒」ですが、それに次ぐ規模だということになります。
製造業に絞ってみると、最も多いのは「はさまれ・巻き込まれ」、次いで「転倒」です。「動作の反動・無理な動作」は3,144人で、はさまれ・巻き込まれや転倒ほど目立ちませんが、墜落・転落よりも多い数字です。正直に言うと、腰痛は「ケガ」というイメージがあまりなく、見過ごされがちな型だと感じます。
「こんなのも持てないのか」と言われた時代
私が社会人になったばかりの頃は、60kgくらいの段取りブロックでも、先輩から「こんなのも持てないのか?」なんて言われたものです(笑)。今となっては、時効の笑い話です。
厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針(ししん。法律そのものではなく、国が示す取り組みの目安です)」では、人力で扱う重さの目安が示されています。満18歳以上の男性は、体重のおおむね40%以下。女性は、その60%くらいまで(計算上は体重の約24%)とされています。
体重に照らすと、こう見える
たとえば体重60kgの男性なら、指針の目安はおよそ24kgです。60kgの段取りブロックは、その2.5倍ということになります。今の時代なら「持てなくて当然」の重さです。体重ごとの目安をまとめると、次のようになります。
| 体重 | 男性の目安(体重の40%) | 女性の目安(計算上は体重の約24%) |
|---|---|---|
| 50kg | 20kg | 12kg |
| 60kg | 24kg | 14kg |
| 70kg | 28kg | 17kg |
| 80kg | 32kg | 19kg |
なお、この目安以下なら安全という意味ではありません。荷物の形や持ちやすさ、姿勢、回数、作業時間などによって、腰への負担は変わります。
また、女性については、指針とは別に、労働基準法に基づく女性労働基準規則で法令上の制限があります。満18歳以上の女性は、断続的に行う作業で30kg以上、継続して行う作業で20kg以上の重量物を取り扱うことが、法令で禁止されています。こちらは指針の努力目標ではなく、法令そのものです。
ちなみに、前の職場では、法令とは別に、会社独自の社内ルールとして「断続的に行う作業は30kgまで、継続して行う作業は20kgまで」と決められていました。数字だけ見れば、この女性労働基準規則と同じです。その後、たしか一律20kgまでに変わっていたと思います。つまり、私が「持てないのか」と言われていた頃も、ルール自体はきちんとあったんですよね。あれは、いわゆる「最近の若いやつは」のノリだったのだと思います(笑)。
持ち方の基本
職場における腰痛予防対策指針や、安全の基本として言われているのは、次のようなことです。
- 膝を曲げて腰を落とす。背中はまっすぐ保つ
- 荷物はできるだけ体に近づける。遠くで持つほど、腰への負担は増える
- 持ち上げるのは脚(大腿)。背中で持ち上げない
- 体をひねりながら持ち上げない
- 足を肩幅くらいに開いて、姿勢を安定させる
- 力を入れるときは、呼吸を整え、下腹部に力を入れる(息を止めない)

片手で持つ、無理して一人で運ぶといったことも、バランスを崩す原因になります。「あれ、ちょっと重いかも」と感じた時点で、一人で頑張らないというのも、立派な判断だと思います。
そもそも「持たない」工夫を優先する
重い物を扱う作業では、まず機械化・自動化で人力そのものを減らし、それでも人力で扱う場合に姿勢や重さに気をつける、という順番が勧められています。ここでの「持たない」は、完全に持たない方法だけでなく、「一人では持たない」「一回では持たない」という工夫も含めて考えます。
- 台車やパレットを使う
- リフターなど電動アシスト機器を使う
- クレーンで吊る(吊るときは荷から離れる。玉掛けが必要な場合は→玉掛けの基本)
- 二人以上で分担して持つ
- 重い荷物は、小分けにして、一度に持つ重さを減らせないか考える
このうち4つを図にすると、次のようになります。

重さそのものを減らせば、姿勢の乱れやとっさの無理な動きも一緒に減ります。職場によって使える設備やルールはさまざまだと思います。それでも、「一人で持つ」を最初の選択肢にしないというだけで、腰への負担はだいぶ変わってくるはずです。一人で持たない工夫は、自分の腰だけでなく、隣で働く仲間の腰を守ることにもつながります。
持つ前に、まず重さを知っておく
指針の目安と自分の体重を照らし合わせるにも、そもそも荷物の重さがわからなければ判断のしようがありません。見た目や素材から重さを目測するコツは、以前金属の重量を目測するコツと計算ツールの記事にまとめました。持つ前に「これくらいありそうだ」とあたりをつけられれば、一人で持てる範囲か、台車や二人作業に切り替えるべきかも、その場で判断しやすくなります。重量表示や図面、計算、実測で確認できる場合は、そちらを優先します。
腰まわりのストレッチも、無理のない範囲で
指針では、重量物取扱い作業など腰に負担のかかる作業に常時従事する人に対して、筋肉の疲労回復や柔軟性を高めることを目的に、腰痛予防体操を実施させることが挙げられています。全国労働衛生週間の実施要綱でも、ストレッチを中心とした腰痛予防体操の実施が取り組みの一つとして挙げられています。反動をつけず、痛みのない範囲で、無理なく行うのが基本です。
ただし、痛みが続く場合は、我慢せず医師に相談することをおすすめします。無理に動かして長引かせてしまっては、元も子もありません。
もし腰を痛めて、仕事を長く休むことになったときのお金の備えについては、傷病手当金の記事にまとめてあります。あわせて知っておくと、いざというときに安心です。
全国労働衛生週間ともつながっています
10月の全国労働衛生週間の実施要綱(じっしようこう。厚生労働省がその年の取り組み方針をまとめた文書)にも、「転倒・腰痛災害の予防」が実施事項として挙げられています。週間全体の日程やスローガンについては全国労働衛生週間とはの記事に、足元の転倒対策については工場の転倒・つまずき対策の記事にまとめていますので、あわせてご覧ください。
まとめ
「こんなのも持てないのか」と言われた時代は、終わりました。指針が示す目安は、体重のおおむね40%(男性)・約24%(女性、計算上)です。あくまで努力目標であって、法令上の義務ではありませんが、体を守るための一つの物差しとして、頭の片隅に置いておいて損はないと思います。膝を曲げる、体に近づける、ひねらない。まずはこの3つのうち、1つだけでも意識してみてください。そして、持てそうでも「持たない」を選べる工夫が、職場にあるかどうかも、一度見直してみませんか。
他の安全対策もあわせて振り返りたい方はこちら → 【保存版】工場・現場の安全対策まとめ
以上、ご安全に!!
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