【保存版】休んでも収入はゼロにならない|傷病手当金のきほんと落とし穴

傷病手当金 働けない間の収入の守り(記事アイキャッチ・傘が給与明細と硬貨を守るイラスト) お金の話

もし病気やケガで、1か月まるまる仕事を休むことになったら――。そう考えると、ふと不安になることはありませんか。私はまだお世話になったことがなく、名前を聞いたことがある程度で、詳しい仕組みまではきちんと知りませんでした。

先日の記事では、医療費が高額になったときに助けてくれる「高額療養費」という制度をご紹介しました。今回はその続きとして、「収入」を守ってくれる制度のお話です。医療費は高額療養費が、収入は傷病手当金(しょうびょうてあてきん)が担ってくれる――そう整理すると分かりやすいと思います。

収入が減るかもしれないという不安は、心と体の大きな負担にもなります。だからこそ、まず「どこまでは守られているか」を知っておくことが、いちばんの安心材料になると私は思っています。

工場のような現場で働いていると、体を使う仕事も多く、ケガや体調不良で長く休まざるを得なくなることは、決して他人事ではありません。いざというときに慌てないよう、今日は傷病手当金の基本を一緒に確認していきましょう!

この記事のポイント

  • 傷病手当金は、給料の約3分の2が健康保険から支給される制度です
  • もらえる期間は最長で通算1年6か月です
  • 連続して3日休んだあと、4日目から対象になります
  • 会社員が入る健康保険の制度で、国民健康保険にはありません

傷病手当金(しょうびょうてあてきん)のきほん

傷病手当金は、健康保険の被保険者(会社員など、会社の健康保険に加入している方)が、業務外の病気やケガで働けなくなったときに、健康保険から支給される所得保障の制度です。根拠は健康保険法第99条になります。

ここでいう「業務外」とは、仕事中や通勤中ではない、普段の生活の中で起きた病気やケガのことです。仕事中・通勤中のケガについては、この後の章で説明する労災保険の対象になります。

支給される条件は、大きく分けて次の4つです。

  • 業務外の病気やケガの療養のための休業であること
  • 仕事に就くことができない状態であること
  • 連続する3日間を含み、4日以上仕事に就けなかったこと
  • 休業した期間について、給与の支払いがないこと

気になる金額ですが、ざっくり「給料の3分の2くらい」とイメージしておくとよいと思います。

たとえば、標準報酬月額(ひょうじゅんほうしゅうげつがく。おおよそ月給に近い基準額)が30万円の方の場合、日額はおよそ6,667円になります。まる1か月(30日)休んだとすると、2か月目以降は月あたり約20万円のペースで支給される計算です。休み始めた最初の月は、先ほどの条件にもあった「連続する3日間」(待期(たいき)と呼びます)の分を差し引くため、27日分・約18万円ほどになります。

もらえる期間は、支給が始まった日から通算して1年6か月です。「通算」というのがポイントで、2022年(令和4年)からのルールになります。それ以前は、途中で一度職場に復帰した期間も含めて「暦の上で1年6か月」で区切られていました。今のルールでは、復職して元気に働けた期間はカウントされず、再び休むことになったときのために期間が残ります。体調に合わせて復職に挑戦しても、損をしにくい仕組みに変わったということですね。なお、2026年8月の高額療養費の見直し(先日の記事でご紹介した改正)では、この傷病手当金のルールは変わっていません。

休んでも、収入はいきなりゼロにはならない。

ただし、この「3分の2」には、先に知っておきたい前提があります。3分の2というのは、先ほどの標準報酬月額(ざっくり額面の給料に近い基準額)に対しての割合で、「ふだんの手取りの3分の2がもらえる」という意味ではありません。傷病手当金そのものに所得税はかからない一方で、休んでいる間も健康保険料や厚生年金保険料、住民税の支払いは基本的に続きます(保険料が免除されるのは産前産後休業・育児休業のときだけです)。手元に残る金額は、思ったより少なくなることがあると頭に入れておくと安心です。

そしてもう一つ。この傷病手当金は会社員などが入る健康保険の制度で、国民健康保険(自営業やフリーランスの方が加入する保険)には、法律で定められた傷病手当金はありません。

傷病手当金がもらえるまでの流れ(連続3日の待期後、4日目から給料の約3分の2を通算1年6か月まで)
▲もらえるまでの流れ(金額の計算例は本文でどうぞ)

もらうまでの流れ

実際にもらうまでの流れも押さえておきましょう。

その前に、実感に近い「順番」の話をしておきます。長く休むことになった場合、いきなり傷病手当金から始まるとは限りません。多くの場合、おおまかには次のような流れになると思います。

  1. まずは有給休暇。給料はほぼそのまま出ます(会社の規定によって計算のしかたは多少違います)。失効した有給を積み立てておける「積立休暇」の制度がある会社なら、そちらも使えます。
  2. 会社によっては、病気による欠勤でも一定期間は給与が出る制度を持っているところがあります。ここは就業規則次第で、無い会社も多いです(ちなみに、私の会社には無さそうです)。
  3. 給与が出なくなったら、傷病手当金へ。ここからが健康保険の出番です。

先ほどの支給条件に「給与の支払いがないこと」とあったのはこのためで、給与が出ている間は傷病手当金は支給されません(給与が手当金より少なければ、差額が出ます)。どの順番でどの制度を使えるかは会社によって違うので、長く休みそうだと分かった時点で、早めに会社の総務や上司に相談しておくのが確実です。

休んだあとの収入のつながり(有給休暇→会社の欠勤給与→傷病手当金の順で収入がつながる図解)
▲収入のつなぎ方のイメージ(②が無い会社も多いなど、順番は会社によって変わります)

そのうえで、傷病手当金のルールとしては、休み始めてから連続する3日間は「待期(たいき)」という扱いで、この間は支給されません。ポイントは”連続”という部分で、2日休んで3日目に一度出勤してしまうと、そこでリセットされてしまいます。待期の3日間には、有給休暇や土日祝日の公休日も含まれます。その間に給与が支払われていたかどうかは関係ありません。つまり、先ほどの「順番」で有給を使って休んでいる間も待期のカウントは進んでいるので、有給を使い切ってからでないと傷病手当金の話が始まらない、というわけではありません。待期が連続して成立したら、4日目からが支給の対象になります。

申請するときは、申請書に本人・会社(事業主)・主治医(療養担当者)の3者がそれぞれ記入し、加入している協会けんぽの支部に提出します。審査のうえ支払いが決まれば、受付から10営業日以内に支払われるのが目安です。分からないことがあれば、まずは会社の総務・人事担当者や、加入している協会けんぽ・健保組合に相談してみるのが確実です。

もし請求し忘れていた期間があっても、時効は2年です。労務不能だった日ごとに、その翌日から2年間は遡って請求できます。「あのとき申請していなかった」と気づいたら、まだ間に合う可能性があるので確認してみてください。

仕事中のケガは労災。ここを間違えない

ここで一つ、はっきりさせておきたいのが労災(ろうさい。仕事中や通勤中のケガ・病気を保障する制度)との違いです。仕事中や通勤中の病気・ケガは、傷病手当金の対象ではなく、労災保険の対象になります。

労災保険の休業(補償)等給付は、休業1日につき給付基礎日額の80%(休業(補償)等給付60%+休業特別支給金20%)が支給されます。傷病手当金の約3分の2よりも、手厚い設計になっているわけです。

だからこそ、業務中のケガを私傷病(ししょうびょう。仕事とは関係のない病気やケガ)のように扱ってしまうのは、絶対に避けたいところです。以前、現場の言葉の連載でも触れましたが、労災かくしは違法行為です。「大したことないから」と自己判断で済ませず、ケガをしたときはまず業務中・通勤中かどうかを事業主と一緒に確認することが第一歩になります。

仕事中のケガは労災保険(約8割)、仕事外の病気ケガは傷病手当金(約3分の2)の使い分け図解
▲そのケガは仕事中?仕事外?で使う制度が変わります(割合はざっくりの目安。くわしくは本文で)

気をつけたいこと

傷病手当金には、知らないと損をしたり、慌てたりしてしまうポイントがいくつかあります。

まず、給与が支払われている間は支給されません。ただし、給与の額が傷病手当金より少ない場合は、その差額が支給されます。まったくのゼロか満額か、という単純な話ではないんですね。会社によって休業中の給与の扱いはさまざまなので、自分の会社がどちらのパターンかも確認しておくと安心です。

特に気をつけたいのが、退職するときの落とし穴です。

退職日に、あいさつ回りなどのつもりで出勤してしまうと、退職後も継続して傷病手当金を受け取れる「継続給付」が受けられなくなります。

継続給付を受けるには、資格を失う前日まで継続して1年以上被保険者だったこと(任意継続の期間は除く)、そして資格を失う時点で実際に傷病手当金を受けているか、受けられる状態であることが必要です。退職日に少しでも仕事をしてしまうと、この「受けられる状態」に当てはまらなくなってしまいます。また、一度働ける状態に戻ると、その後また働けなくなっても支給は再開されません。退職を控えている方は、この点だけは特に意識しておいてほしいと思います。

任意継続被保険者(退職後も任意で健康保険を続けられる制度)になった場合、申請できるのは在職中から継続して受給している分だけです。任意継続の期間中に新しく発生した病気やケガは、対象外になります。

また、「休職」という言葉もよく出てきますが、これは法律で定められた制度ではなく、会社が独自に定めている制度です。傷病手当金とは別物なので、休職中の扱いがどうなっているかは、就業規則を確認しておくのが安心です。

年金などをすでに受けている方は、傷病手当金との間で調整が入ることがあります。仕組みが複雑になりやすい部分なので、該当しそうな方は自己判断せず、個別に健保に確認しておくのがよいと思います。

健保組合の上乗せ(付加給付)がある方へ

ここまでは協会けんぽを前提にお話ししてきましたが、会社によっては独自の「健康保険組合」に加入している場合もあります。健保組合の中には、傷病手当金に独自の上乗せ(付加給付)を用意しているところがあります。給付率を上乗せしたり、支給期間が終わったあとにさらに一定期間延長したりする例もあるようです。

大手企業系の健保組合には、こうした手厚い付加給付がある例もあります。組合によって内容はまったく違うので、「傷病手当金付加金」といったキーワードで、自分が入っている健保組合のサイトを検索してみることをおすすめします。サイトが見つからないときは、会社の給与担当や人事に聞いてみるのも早道です。もしかしたら、思っていたより手厚い保障があるかもしれません。

長引く休みは、誰にでも起こりうる

少しデリケートな話にはなりますが、統計にも触れておきます。協会けんぽの令和6年度の調査によると、傷病手当金の受給原因は「精神及び行動の障害」が39.15%ともっとも多くなっています。支給期間も他の傷病より長くなる傾向があり、精神及び行動の障害の場合は平均215.28日、およそ7.1か月。すべての傷病を合わせた全体でも、平均171.75日、約5.7か月にのぼります。

体だけでなく、心の不調で長く休むことになる方も少なくないということです。特別なことではなく、誰にでも起こりうることとして、この数字が物語っていると感じます。工場のような現場でも、これは決して他人事ではありません。だからこそ、いざというときのためにこうした制度があることを、知っておいてほしいと思います。

今日からできる備え

ここまで読んで、「いざというときのために何かしておきたい」と感じた方もいるかもしれません。最後に、今日から気軽にできる備えを3つ挙げておきます。

  • 給与明細で自分の標準報酬月額をざっくり確認して、日額を概算してみる
  • 自分の入っている健保に付加給付があるかどうか調べてみる
  • 会社の就業規則で、休職制度がどうなっているか確認しておく

どれも、今すぐできることばかりです。まずは1つだけでも、今日のうちに確認してみてください。

まとめ

休んでも、収入はいきなりゼロにはならない。

この一言に、傷病手当金という制度の意味が詰まっていると思います。病気やケガは、誰にでも、いつ起こるか分かりません。制度の存在を知っているかどうかで、いざというときの安心感は大きく変わってきます。

医療費は高額療養費、収入は傷病手当金。この2つをセットで知っておけば、いざというときの心構えがぐっと変わってくると思います。

もしものときのために、まずは自分の標準報酬月額と、健保組合の付加給付の有無だけでも確認しておきましょう。

制度は今後も変わることがあります。最新の情報は必ず公式サイトでご確認ください。

以上、ご安全に!!

補足: 正確な計算式

傷病手当金の日額は、正確には次の式で計算されます。

支給開始日以前の直近12か月間の各月の標準報酬月額を平均し、30で割ります(5円未満は切り捨て、5円以上10円未満は10円に切り上げ)。それに3分の2を掛けます(50銭未満は切り捨て、50銭以上1円未満は1円に切り上げ)。

被保険者期間が12か月に満たない場合は、①本人の直近各月の平均、②全被保険者の平均標準報酬月額(2026年度時点で、支給開始日が令和7年4月1日以降なら32万円、令和7年3月31日以前なら30万円)、のいずれか低い方を使って計算します。この基準額は毎年4月に見直されるので、実際に申請するときは協会けんぽのサイトで最新の金額を確認してください。正確な金額を知りたい方は、この式で概算してみてください。

出典

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