工場の通路を急ぎ足で歩いていて、床に置きっぱなしの部材や、うっすら光る油の跡に「ヒヤッ」とした――そんな経験がある方は、少なくないのではないでしょうか。「これくらいなら大丈夫」。そう思った次の瞬間に、足元をすくわれることもあります。その場では何事もなく済んでも、タイミングが少し違えば、そのまま転んでいたかもしれません。
転倒は「注意力の問題」「うっかりの問題」として片づけられがちです。ですが、統計を見ると、話は少し違ってきます。今日は、工場でよく起きる転倒・つまずきの原因と、今日からできる対策を整理しておこうと思います。
この記事でわかること
- 労働災害の中で「転倒」がどれくらい多いのか(全産業・製造業それぞれ)
- 工場でよくある転倒・つまずきの原因3つ
- 明日からできる対策と、職場として整えられること
- 年齢や体力の変化と、事業者の配慮について
「うっかり」では片づけられない、転倒という労災
厚生労働省が公表した令和7年の確定値によると、休業4日以上の死傷者数を事故の型別に見たとき、全産業でいちばん多いのは「転倒」で、37,195人にのぼります。「動作の反動・無理な動作」(いわゆる腰痛など)や「墜落・転落」よりも件数が多く、事故の型のうちで最多という結果です。
ただし、これは「休業4日以上の死傷者数」で見た場合の話です。死亡者数で見ると、最多は「墜落・転落」です。転倒は死亡者数では最多ではない一方、休業4日以上の死傷者数では最も多い事故の型です。
工場の現場、つまり製造業だけに絞ると、順位が少し変わります。最も多いのは「はさまれ・巻き込まれ」で5,992人、次いで多いのが「転倒」で5,732人です。機械に手や体を巻き込まれる災害がまず頭に浮かびますが、転倒もそれに次ぐ規模で起きているというのが実際のところです。
| 区分 | 最も多い事故の型 | 人数 |
|---|---|---|
| 全産業 | 転倒 | 37,195人 |
| 製造業 | はさまれ・巻き込まれ | 5,992人 |
| 製造業(2位) | 転倒 | 5,732人 |
(厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定値)」より。いずれも休業4日以上の死傷者数)
工場の転倒は「たいしたことにはならない」と受け止められがちですが、骨折などによって長期の休業につながることもあります。小さな「ヒヤッ」の裏には、数字に出てくる件数よりもずっと多くのヒヤリハットが隠れているとも言われます(参考:ハインリッヒの法則)。
工場でよくある「うっかり」の正体
転倒・つまずきには、いくつか典型的なパターンがあります。工場の現場でよく挙がるのは、次の3つです。
- 段差 — 通路のわずかな高低差や、出入口の敷居。慣れている通路ほど、油断して足を取られやすいところです。
- 油や切削液で滑る床 — 加工中に飛び散った油や切削液、水滴。うっすら濡れているだけでも、靴底の摩擦は大きく変わります。
- コードやホース — 電源コードやエア配管のホースが、養生されないまま通路を横切っているケース。足を引っかけてつまずく典型パターンです。
ここに、急ぎ足であることや、両手がふさがって足元が見えない状態が重なると、転倒のリスクはさらに上がります。忙しい時間帯ほど、こうした条件がそろいやすいのが困ったところです。日が短くなり始めるこの時期は、屋外の構内移動や通勤時の足元にも注意が向きやすくなります。季節の変わり目の安全については9月・10月の工場の安全の記事でも触れています。
チェックしておきたい場所を図解にまとめると、次の6点になります。

「ヒヤッとした」で終わった経験は、自分の中だけにしまい込みがちですが、共有すれば次の転倒を防ぐ手がかりになります。実際の共有の仕方はヒヤリハットの記事にもまとめていますので、あわせてどうぞ。
明日からできる3つ
ここからは、個人としてすぐに始められることを3つ挙げます。
- 靴 — かかとを踏まずにきちんと履く。滑りにくい靴を選ぶ。基本ですが、忙しいと崩れやすいところでもあります。
- 整頓 — 通路に物を置かない。使い終えた工具や部材は、その場で戻す。整頓の基本は、以前5S3定の記事にまとめました。
- 声かけ — 「走らない」「足元、気をつけて」を、朝礼などで一言添える。言われ続けることで、意識は残ります。
3つとも、特別な準備がいらないものばかりです。日々の習慣は、まず1つからでも十分だと思います。ただし、油汚れや通路上の障害物など、その場で気づいた危険は放置しないようにしたいところです。
私がこの記事で大事にしたいのは、ここからです。転倒を本人の注意だけの問題にせず、職場の環境も一緒に見直していくことです。床の油や段差は、自分だけでなく、同じ通路を歩く仲間もつまずかせるからです。
職場として整えられること
個人の注意だけに頼らず、環境として整えられることもあります。照明のように法令上の最低基準がある項目も含みますが、ここでは現場でよく取られている工夫として紹介します。
- 段差の縁を目立つ色で示す(黄色のテープなど)
- 油や水の漏れ・飛散を減らし、床に出たものは早めに拭き取る。必要に応じて滑り止めを使う
- 暗い通路や作業エリアの照明を見直す
- 清掃のタイミングをルール化する(気づいた人がその場で拭き取る、担当を決めるなど)
大がかりな設備投資というより、今ある通路や照明を少し見直すだけでできる範囲のものが多いと感じます。連休明けなど、通路や足元が乱れやすいタイミングで一度チェックする習慣も有効です。連休明けの安全の記事も、あわせてご覧ください。
年齢や体力の変化と、事業者の「配慮」
製造業では働く人の高齢化が進んでいると言われ、職場によっては50代・60代の同僚と一緒に働く場面が増えてきた、と感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。加齢に伴う健康や体力の変化には個人差があり、バランス感覚や反射神経の変化が転倒のリスクと無関係ではない、ともされています。年齢だけで一律に見るのではなく、一人ひとりの状況に応じて安全に働ける環境を整えることが大切です。
こうした背景もあり、労働安全衛生法に新しい条文(62条の2)が設けられ、高年齢の労働者への配慮を事業者の努力義務とする規定が、今年(2026年)4月1日に施行されました。あわせて「高年齢者の労働災害防止のための指針」(令和8年2月10日公示)も示されています。
全国労働衛生週間ともつながっています
10月の全国労働衛生週間の実施要綱(じっしようこう。厚生労働省がその年の取り組み方針をまとめた文書)にも、「転倒・腰痛災害の予防」が実施事項として挙げられています。週間全体の日程やスローガンについては全国労働衛生週間とはの記事にまとめていますので、あわせてご覧ください。
まとめ
段差、油や切削液、コードやホース――どれも工場ではありふれた光景で、だからこそ「うっかり」の一言で片づけられがちです。ですが、統計に表れているとおり、転倒は決して小さな話ではありません。靴、整頓、声かけ。まずはこの3つのうち、1つだけでも今日から意識してみてください。
他の安全対策もあわせて振り返りたい方はこちら → 【保存版】工場・現場の安全対策まとめ
以上、ご安全に!!
→ あわせてどうぞ!






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