【現場の言葉】ものづくりはひとづくり――人が育たなければ、いいものはできない

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「ものづくりはひとづくり」。ものづくりの現場で、昔からよく言われてきた言葉です。設備でも工程でもなく、まずを育てること。人が育たなければ、いいものは生まれない。そういう考え方を、一言に込めた言葉だと思っています。

今回は、この言葉を私がどう受け取ってきたか、そして教える側に回った今、何を感じているかを書いてみようと思います。

この言葉が伝えていること

この言葉を私なりに噛み砕くと、こういうことだと思っています。ものをつくることは、人間をつくることでもある、ということです。

頭で理論を知っているだけでは、いいものはつくれません。かといって、手だけを動かしていても、いいものはつくれません。学び、実際にやってみて、失敗して、工夫する。その繰り返しの中で、技術だけでなく、その人自身も育っていく。そういう意味だと私は受け取っています。

実際、一つの製品をきちんとつくろうとすると、自然と必要になってくるものがあります。私は、次の五つだと思っています。

  • ごまかさない誠実さ
  • 小さな違いに気づく注意深さ
  • 失敗から学ぶ謙虚さ
  • 最後までやり抜く忍耐
  • 次に使う人を考える思いやり

「そんなの綺麗事でしょう」と思う方もいるかもしれません。正直に言うと、私も最初はそれに近い気持ちで聞いていました。でも、良いものをつくろうとする仕事そのものが、その人の人格や仕事への姿勢を、少しずつ磨いていく。現場で何年も過ごすうちに、この言葉の重みが少しずつわかるようになってきました。

きちんとつくろうとすると磨かれる五つのもの: 誠実さ、注意深さ、謙虚さ、忍耐、思いやり

私がこの言葉に出会ったのは

私がこの言葉に初めて出会ったのは、学生時代、ものづくりを学ぶ学校でのことでした。授業の中で、この考え方に触れたのが最初です。当時はまだ実感が薄く、「へえ、そういうものか」くらいの受け止め方だったと思います。

新人時代を過ごした最初の会社にも、同じような考え方が根付いていたと感じています。今振り返ると、あれは当たり前のことではなかったのだと思います。私は今も別の工場で現役として働いていますが、当時の学びは、今の現場でも大事にしている考え方です。

そのとき、はっきりと「まさにそうだ」と思いました。人が成長しなければ、いいものづくりはできない。技術も、品質も、安全も、結局は人が支えているのだと。

教える側に回ってわかったこと

今も現場でものづくりに関わり続けている中で、最近は教わる側だけでなく、教える側に回る機会も増えてきました。

教える立場になって初めてわかったことがあります。それは、言語化(頭の中の感覚や判断を、言葉にして伝えること)することの大切さと難しさです。

自分では当たり前にできる作業でも、いざ言葉で説明しようとすると、うまく言えないことがたくさんあります。「なんとなく」「感覚で」やっていた部分を、一つひとつ言葉に直していく作業は、想像していたより骨が折れます。

「このボタンを押してください」「この手順を守ってください」。手順だけを伝えて終わりにしてしまうのは簡単です。でも本当に伝えたいのは、なぜここでこの手順を踏むのか、なぜこのタイミングで確認するのか、なぜ品質にこだわるのか、という「なぜ」の部分です。普段は流れの中で自然にやっていることほど、いざ言葉にしようとすると詰まってしまう。長年やってきて体に染みついていることほど、うまく出てこないものです。

『なぜ』まで伝えるのが、ひとづくり。手順だけを伝える教え方と、なぜこの手順を踏むのか・なぜこのタイミングで確認するのか・なぜ品質にこだわるのかまで伝える教え方を対比した図解

「何を当たり前のことを聞くんだ」——そう思ってしまいそうになる瞬間も、正直あります。ですが、それは自分にとって当たり前になっただけで、教わる側にとっては当たり前ではありません。そこをぐっとこらえて、一つずつ言葉にしていく。教える側にとっても、実は学び直しの機会になっていると感じています。

言語化のその先にあるもの

ただ、言葉にして伝えるだけでは、まだ半分だと感じています。私が今いちばん願っているのは、教える相手が、興味を持って自分から学んでくれるようになることです。

言われたことだけをこなす人と、「これはなぜこうなっているんだろう」と自分から疑問を持てる人とでは、数年後の伸び方がまったく違います。以前この連載で書いた「仕事は見て盗め」にも通じる話ですが、結局は自分から取りに行く姿勢があるかどうかが大きいのだと思います。

とはいえ、「自分で考えろ」と突き放すだけでは、興味は育ちません。教える側がまず言葉にして渡す。そのうえで、「なぜだと思う?」と問いかける余地を残す。そのバランスを、私自身もまだ手探りで探しているところです。

教えることは、常識をつくる手助け

以前、新人だった後輩に仕事を教えていたころの日々を、この連載とは別の記事に書いたことがあります。あのときも感じたのは、教えるという行為が、その人の「当たり前」を一つずつ作っていく作業だということでした。

人によって、これまで積んできた経験も、ものごとの捉え方も違います。同じ説明をしても、伝わり方は一人ひとり違う。だからこそ、教える側には相手に合わせて言葉を選び直す根気が必要なのだと感じています。一度でうまく伝わらなくても、言い方を変えて何度でも渡す。地味ですが、これも立派な仕事の一つだと思うようになりました。

最近は、OJT(職場内での実地訓練)のチェックリストをAIと一緒に作った話も記事にしました。教える内容を言葉に落とし込む作業は、人の手だけでなく、AIにも手伝ってもらえる時代になってきたと感じています。

まとめ

「ものづくりはひとづくり」。学生時代に出会い、新人時代を過ごした会社で実感し、今は教える側として改めてかみしめている言葉です。

設備も工程も大事です。でも、それを動かし、守り、次につなげていくのは、結局は人です。人が育たなければ、いいものづくりは続かない。そのことを、これからも現場で確かめていきたいと思います。

正直、言語化はまだまだ得意とは言えませんし、うまく伝わらずに悩むこともあります。それでも、教える側に回ったことで見えた景色は、教わるだけだったころには気づけなかったものでした。この気づきも、いつか誰かに言葉で渡せたらと思っています。

工場の安全や仕事の基本については、工場安全ガイド(まとめページ)もあわせてどうぞ。

この連載「現場の言葉」の他の記事は、こちらの一覧からどうぞ。現場で受け継がれてきた言葉を、私なりに少しずつ書きためています。

以上、ご安全に!!

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