「KYやっといて」って言われても、正直よくわからない
朝礼でリーダーが「今日もKYしっかりな!」と言う。新人さんが「KYって何ですか?」と小声で聞いてくる。私も新人のころ、正直よくわかっていませんでした(笑)。なんとなく「危ないことを考えるやつ」くらいの理解で、みんなが指を差して「ヨシ!」と言うのを真似していた、あのころ。
今も現場で毎日のように使う言葉なのに、いざ「で、KYって何?」と聞かれると、スッと説明できる人は意外と少ない。だから今日は、専門用語をなるべくかみ砕いて、KY(危険予知)の素の基本を、現場の先輩が新人に教えるつもりで一から書いてみます。AIは今回いっさい出てきません。まずは”そもそも”の話から、一緒にいきましょう。
そもそもKYって何の略? ―― KY・KYT・KYKの違い
まず言葉の整理から。現場でよく聞く「KY」は、危険予知(きけんよち)の略です。「危険(Kiken)」のK、「予知(Yochi)」のYですね。空気が読めない、のKYではありません(懐)。
そこに「T(トレーニング=訓練)」がつくと KYT=危険予知訓練(きけんよちくんれん)。会議室などで、危険を見抜く力を鍛えるトレーニングのことです。「危険(Kiken)」「予知(Yochi)」「トレーニング(Training)」の頭文字をとってKYTと呼びます(出典:中央労働災害防止協会=中災防)。
さらに「K(活動)」がつくと KYK=危険予知活動(きけんよちかつどう)。こちらは実際の作業前に、現場で危険を話し合って実践する活動のことです。整理すると、こんな関係です。
- KYT(訓練)=危険を見抜く力を「鍛える」(主に会議室・教育の場)
- KYK/KY活動(活動)=鍛えた力を作業前に現場で「使う・実践する」
厚生労働省の安全衛生マニュアル(PDF)では、KY活動を「業務を始める前に『どんな危険が潜んでいるか』を職場で話し合い、『これは危ないなぁ』と危険のポイントについて合意したうえで対策を決め、行動目標や指差し呼称項目を設定し、一人ひとりが指差し呼称で安全衛生を先取りしながら業務を進める」プロセスだと説明しています。
ちなみに、この3つの言葉、現場や本によって使い方がけっこう揺れます。KYとだけ言ってKYTやKYKの意味で使っている人も多い。なので「うちの呼び方が絶対正しい」と気負わず、「危険を先に見つけて、先に手を打つ」という中身さえ押さえておけば大丈夫です。
KYTのやり方 ―― 基礎4ラウンド法を一から
KYTの一番の代表が「基礎4ラウンド法」です。イラストシート(危険が潜んだ作業の絵)や現物を見ながら、5〜6人くらいの小さなチームで話し合って進めます(人数は厚生労働省 職場のあんぜんサイトで標準とされている目安です)。司会進行役と書記を決めるとスムーズです。
4つのラウンド(段階)を、順番に踏んでいきます。それぞれに合言葉があるので、セットで覚えると現場で迷いません。なお、各ラウンドの「○○」というカギ括弧の文は、チームに問いかける定型の合言葉です(読者のみなさんへの呼びかけではなく、進行用のセリフですね)。

- 第1R 現状把握 ――(合言葉)「どんな危険がひそんでいるか」
まずイラストや作業を見て、潜んでいる危険を思いつくだけ出し合います。「これくらい大丈夫」は禁物。数を出すのが大事。 - 第2R 本質追究 ――(合言葉)「これが危険のポイントだ」
出てきた危険の中から、特に重要な「危険のポイント」を絞り込みます。 - 第3R 対策樹立 ――(合言葉)「あなたならどうする」
その危険に対して、自分ならどう防ぐかの具体策を出し合う段階です。 - 第4R 目標設定 ――(合言葉)「私たちはこうする」
対策の中から「これをやる!」という行動目標を決めます。
(各ラウンドの呼称と合言葉は、中央労働災害防止協会「危険予知訓練(KYT)の進め方」より。)
最後に、決めた行動目標をチーム全員で声をそろえて確認します。これを指差し唱和(ゆびさししょうわ)といいます。「○○、ヨシ!」とみんなで唱える、あの締めくくりですね。1テーマ10〜30分くらいが目安としてよく言われます。
ここで一つだけ注意。「指差し唱和」と、次に説明する「指差し呼称」は別物です。唱和はチーム全員で行動目標を声を合わせて確認すること。呼称は作業のときに一人で対象を指差して確認すること。混ざりやすいので、ここで分けて覚えておきましょう。
指差し呼称のやり方と、なぜ効くのか
続いて、現場でいちばん身近な指差し呼称(ゆびさしこしょう)。鉄道では「指差喚呼(しさかんこ)」とも呼ばれます。もともとは旧国鉄(日本国有鉄道)の運転士さんが信号確認のためにやっていた安全動作で、今は鉄道だけでなく航空・運輸・建設・製造と、幅広い現場で行われています(出典:厚生労働省 職場のあんぜんサイト)。
基本の所作
やり方の基本形はシンプルです。
- 確認する対象(スイッチ・バルブ・表示など)をしっかり見つめる
- その対象を指でビシッと差す
- 「本当に良好か?」を確認する
- 「○○ヨシ!」と声に出す

中災防系の解説では「左手は腰に当て、背筋を伸ばして、対象を指差し、大きな声ではっきり〜ヨシ!と呼称する」とされています。ただ、左手の位置や腕の角度、声の出し方といった細かい型は、団体や現場のルールで差があります。「これが唯一の正解」と気負わなくて大丈夫。指で差して声に出して確認する、という芯さえ守れば、細かい型は職場のルールに合わせればOKです。
なぜ効くと言われているのか
「指差して声を出すだけで、本当に意味あるの?」と思いますよね。私も最初はそう思っていました。これには室内実験のデータがあります。
鉄道総合技術研究所の芳賀繁さんらが1996年に発表した室内実験(パソコン画面の色に対応するキーを押す課題)では、何もしない場合に比べて、指差し呼称をした場合の誤り率が約6分の1に減ったという結果が出ています。厚生労働省の職場のあんぜんサイトでは、この実験の結果を、押し間違いの発生率が何もしない場合の2.38%に対し、指差し呼称をした場合は0.38%だった、と紹介しています。よく「誤りが約6分の1」と言われるのは、この実験が元になっています。
この実験では、(1)指差し呼称(指で差して声も出す)、(2)指差しだけ、(3)声だけ、(4)何もしない、の4つを比べていて、指差しだけ・声だけよりも、両方そろえた「指差し呼称」が一番誤りが少なかったという結果でした。指差しと発声、両方そろえることに意味がある、ということですね。
ただし、これはあくまで実験室での選択反応課題(画面を見てキーを押す課題)の結果です。著者自身も「この結果を他の作業にそのまま当てはめるのは危険」と書いています。現場の事故が一律に6分の1になる、という意味ではないので、そこは正直に押さえておきましょう。
なぜ効くのかは、「指で差し声に出して確認する動作を重ねることで、対象への注意が強まり、意識のレベルが上がるため」と説明されています(芳賀さんらの考察より)。ただこれも仮説の段階で、著者も「メカニズムを断定はできない」としています。なので「科学的に証明された万能の方法」と思い込まず、「効くと考えられている、有効な確認のひと手間」くらいの受け止めがちょうどいいと私は思っています。
もう一つ正直な話を。指差し呼称をすると、確認に少し時間がかかります(実験でも反応時間は延びました)。一瞬の即応が必要な作業には向かない場面もある、と著者も指摘しています。そして何より、設備の改善をサボって「指差し呼称さえやればいい」と個人に押し付けるのは本末転倒。これも著者が釘を刺しているところで、私もまったく同感です。
KYは法律で義務? ―― 答えと制度の中での位置づけ
新人さんによく聞かれるのが「KYって法律で決まってるんですか?」。ここは正確にいきます。
結論から言うと、KY活動やKYTそのものを「やりなさい」と名指しで義務づけた条文はありません。KYは、事業者が自主的に行う安全活動という位置づけです。一方で、その土台になる制度は労働安全衛生法(e-Gov法令検索)で決まっています。
- 安全衛生教育(安衛法59条など)=義務。雇い入れたとき、作業内容が変わったとき、危険有害業務に就かせるときの特別教育などは「行わなければならない」とされています。
- リスクアセスメント(安衛法28条の2)=努力義務。設備や作業に潜む危険性・有害性を調べて手を打つよう「努めなければならない」とされています(平成18年4月施行)。
ざっくり言うと、リスクアセスメントが「事前にじっくり評価する仕組み」、KYが「作業直前に現場でサッと確認する実践」という役割分担です。中災防も、この2つを”一体として進める”安全衛生活動として整理しています。だから「KYは義務じゃないからやらなくていい」ではなく、義務である教育や努力義務であるリスクアセスメントを、現場で日々まわすための実践がKY、と捉えるのが正しい受け止め方だと思います。
(リスクアセスメントを実際にどう作るかは、AIに手伝ってもらった話を別記事に書いています →「リスクアセスメントのたたき台、AIに手伝ってもらったら一瞬だった話」。)
なぜKYが大事か ―― ヒヤリハットと労災の数字
「そんな細かい確認、毎回いる?」と思う日も正直あります。でも、数字を知ると見方が変わります。
有名なハインリッヒの法則(1:29:300)。米国のハインリッヒが1931年の著書で示した経験則で、1件の重大事故の背後に29件の軽いケガ、その背後に300件のヒヤリ(ケガのない事故)があるとされます。大きな事故は、たくさんのヒヤリの先にある。だからヒヤリの段階で手を打つ=KYで先取りする意味があるわけです(これは普遍的な比率ではなく、あくまで経験則・目安として知られています →詳しくは「ハインリッヒの法則」、現場のヒヤリ実話は「ヒヤリハットの話」)。
そして実際の労災。厚生労働省の発表(令和6年=2024年確定値、令和7年5月30日公表)では、休業4日以上の死傷者数は135,718人で4年連続の増加。事故の型で全産業最多は「転倒」(36,378人)です。一方、製造業の死傷者数は26,676人で業種別では最多、そのうち機械による「はさまれ・巻き込まれ」が4,692人。私たち製造現場では、昔から「はさまれ・巻き込まれ」が大きな割合を占めます。動く機械の前で「○○、ヨシ!」とひと呼吸おく意味は、ここにあります。だからこそ、今日できるひと手間に意味があるんです。
夏場も油断できません。同じく令和6年の確定値で、職場の熱中症による死傷者は1,257人と、統計開始以降で過去最多。暑さ対策もKYの大事なテーマです(工場の熱中症対策は「工場の熱中症対策」にまとめています)。
まとめ ―― まず1つだけ、今日から
盛りだくさんになってしまいましたが、最後にギュッとまとめます。
- KY=危険予知。先に危険を見つけて、先に手を打つこと。
- KYT(訓練)で力を鍛え、KYK/KY活動(実践)で現場で使う。
- 4ラウンド法=現状把握→本質追究→対策樹立→目標設定。
- 指差し呼称=見て・差して・声に出して確認。型より「ひと呼吸おく」ことが芯。
全部を一気にやろうとすると、たぶん続きません。なので、まずは1つだけ。今日の作業で、いちばん危ないと思う1か所だけ、指を差して「ヨシ!」と声に出してみる。それで十分です。私も今日も現場で、機械の前でひと呼吸おいてから手を動かします。明日からじゃなくて、今日から。一緒にやっていきましょう。
そして「KYのネタが毎回同じになってマンネリ…」という方は、AIに相談相手になってもらう手もあります。KYのネタ出しをAIに手伝ってもらった話は、この記事の”続き”として書いています。素の基本を押さえたら、次はそちらもどうぞ。
→ あわせてどうぞ!
【主な出典】中央労働災害防止協会「危険予知訓練(KYT)の進め方」/厚生労働省 職場のあんぜんサイト(危険予知訓練(KYT)・指差呼称)/厚生労働省「社会福祉施設における安全衛生対策マニュアル」KY活動の章(PDF)/労働安全衛生法(e-Gov法令検索)/厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」(令和7年5月30日公表・確定値)/同「令和6年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」/芳賀繁ほか(1996)「指差呼称のエラー防止効果の室内実験による検証」産業・組織心理学研究 9(2)。
以上、ご安全に!!






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