「モチベーションを上げていきましょう」――そう言われて、素直に「はい、上がりました!」となる方は、正直そう多くないんじゃないかと思います。私も同じで、やる気というのは気合いを入れたところで、そう都合よく上がってくれるものではありませんでした。
単調な作業が何日も続いたり、同じことの繰り返しに飽きてきたりすると、「この仕事、何のためにやっているんだっけ」と、ふと手が止まる瞬間、みなさんにもあるんじゃないでしょうか。私にもありました。前にいた工場でも、今の職場でも、正直に言うと今でも時々あります。(実はこれ、後半に出てくる「安全」の話にもつながってきます)
むしろ「上げろ」と言われるほど、気持ちが冷めてしまう――そんな経験がある方も、少なくないんじゃないでしょうか。
そんな私の気持ちを、あるとき先輩の一言が、グッと変えてくれたことがありました。今日の「現場の言葉」は、その先輩がよく口にしていたひと言です。実はこの言葉には、まだ続きがあります。
「これは、うちにしかできない仕事だぞ」
この記事でわかること
- 「うちにしかできない仕事だぞ」という言葉の、本当の意味
- モチベーションが”気合い”では上がらない理由
- 自分の仕事の”届く先”を知ったときに起きること
「うちにしかできない仕事だぞ」ってどういう意味?
この言葉、字面だけ見ると威勢のいい精神論に聞こえるかもしれません。でも先輩が言いたかったのは、根性論ではなく、もっと具体的な事実の話でした。
私が前にいた工場では、暮らしや産業の土台を支える、大きな機械に関わる仕事をしていました。詳しくは書けないのですが、そこらの工場が明日から作れるようなものではなく、特殊な設備と、積み重ねた技術がないと形にならない――先輩の「うちにしかできない」は、そういう意味だったんですね。
正直に言うと、最初にこの言葉を聞いたときの私は、「へえ、そうなんですか」くらいの、ふーんという受け止め方でした。笑 毎日同じ持ち場で同じ作業をしていると、自分がどんなものに関わっているかなんて、あまり実感が湧かないものなんです。
それどころか、当時の私は「うちにしかできない、って言うけど、どこも似たようなこと言うんじゃないの」くらいに、斜に構えて聞いていたところもありました。先輩の話は先輩の話、自分は自分の持ち場をこなすだけ――そんな線引きをしていたんだと思います。
ただしこれは、まだ”言葉だけ”を受け取った段階の話。本当の意味が腹に落ちたのは、もう少しあとになってからでした。
自分の仕事の”届く先”を知った日
この言葉の意味が、本当に腹に落ちたのは、実はこの先輩が、言葉だけでなく、その先の考え方まで教えてくれていたからでした。「プロとアマの違い」や「無知よりやばいのが無関心」にも出てくる、改善道場(かいぜんどうじょう)で先生をしてくれていた大先輩――ここでは私も他の記事と同じくOさんと呼ばせてもらいます。今日はOさんに教わった「考え方の階段」を、そのままお伝えしてみます。
ある時、Oさんが私にこう聞いてきました。「この製品、世界で何社が作れると思う?」答えに詰まる私に、Oさんは続けます。「じゃあ、この仕事ができる人は、世界に何人いる?」会社の数より、もっと絞られてくるはずです。さらにOさんは、私が毎日使っている工作機械のほうを指して、こう聞いてきました。「じゃあ、この機械はいくらすると思う?」作る製品の話から、いつも自分が動かしている機械の話へ。(具体的な金額はここには書けませんが、ちょっとした家が一軒買えてしまうくらい、と言えば雰囲気は伝わるでしょうか。)値段の話がしたいわけではなくて、そんな機械を任されている、ということなんですよね。
そして最後に、Oさんはこう言いました。「で、これがどこで使われてるか、思い浮かべてみろ」何社、何人、いくら、という問いを一段ずつ上らされたあとだと、届いた先の景色が、それまでとはまるで違って見えてきたんです。
試しに、みなさんも自分の仕事に当てはめて、この順番で考えてみてください。何社、何人、いくら、届く先。地味な持ち場の、地味な繰り返し作業に思えていたものが、簡単に代わりが見つかる仕事ではないものの一部だったんだと分かって、見える景色がちょっと変わってくるはずです。

モチベーションというのは、たぶん気合いを入れて持ち上げるものではなくて、こういうふうに「気づく」ことで、あとから付いてくるものなんだと思います。Oさんの言葉は、それを先回りして教えてくれていたんですね。
「届く先」が、目に見える職場もある
ここで、もう一つ思い出したことがあります。お客さんのところへ出張で行って、機械の据え付けをする――そういう「組立」の職場は、なぜかモチベーションが高い気がするんです。
私がこれまで見てきたいくつかの職場でも、組立の職場には決まって、あるものが飾られていました。自分たちの製品が届いた先の風景の写真。そして、大きな工事が無事に終わったときに、関係者みんなで撮った記念写真です。
これも、さっきの「届く先」の話と、たぶん根っこは同じなんだと思います。自分たちの仕事がどこに向かって、誰の役に立っているのか――それが写真という形で、いつも目に入る場所に飾ってある。届く先が、想像の中だけでなく、目に見える形でそこにあることが、モチベーションの保ち方の一つなのかもしれません。

私が今も続けている、3つの習慣
この気づきがあってから、単調な作業が続いて気持ちが乗らない日には、私は決まって思い出すようにしていることがあります。
- 目の前の作業だけでなく、「これは何につながっているか」を一度思い浮かべる
- 新しく入ってきた方に仕事を教えるときは、手順だけでなく「この仕事がどこに向かっているか」もひと言添える
- 気持ちが乗らない日ほど、あえて手を止めて、Oさんの言葉を思い出す
実際、新人の方に手順だけを教えて終わると、どうしても「ただの作業」として覚えられてしまいます。そこに「これがどこで使われるものか」をひと言添えるだけで、同じ手順の受け取り方が変わってくるのを、何度も見てきました。教える側にとっても、自分の言葉で説明し直すことで、初心を思い出すいい機会になっているんです。
たったこれだけのことですが、効果は地味に大きいです。「今、自分がやっていることの先には何があるのか」――それを思い出すだけで、同じ作業でも見え方が変わってくるんですよね。

モチベーションは、集中力の「土台」でもある
ここまで読んで、「モチベーションの話と、安全にどう関係が」と思われた方もいるかもしれません。でも実は、この二つは地続きだと思うんです。
もちろん、安全は手順や設備、基本動作で守るのが大前提です。そのうえで――気持ちが乗っていない日ほど、集中力も落ちやすくなる気がします。危ない場面に気づくのが、ほんの一瞬遅れる――それが、私が一番怖いと感じるところです。
だからこそ、モチベーションを保つことは、単に「気持ちよく働くため」だけではなく、自分の身を守るための土台でもあるんですよね。
この連載で書いてきたことも、今日の話とつながっている気がしています。「プロとアマの違い」で書いた、給料をもらっていればもうプロだという話。「ものづくりはひとづくり」で書いた、人が育たなければいいものはできないという話。「仕事は見て盗め」で書いた、学生と社会人の違いの話。どれも、自分の仕事にどう向き合うか、という一本の線でつながっているように思います。
もちろん、すべての仕事が「うちにしかできない」わけではありません。それでも、どんな仕事にも、その先があります。モチベーションは、上げろと言われて上がるものではありません。でも、自分の仕事の”届く先”を知ることで、あとからじわっと付いてくるものだと、私は思っています。
・工場・現場の安全対策のまとめ →「【保存版】工場・現場の安全対策まとめ」
この連載「現場の言葉」の他の記事は、こちらの一覧からどうぞ。現場で受け継がれてきた言葉を、私なりに少しずつ書きためています。
以上、ご安全に!!

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