少し前になりますが、新人さんに素材の話をする機会がありました。聞かれたわけではありません。図面や材料を一緒に見ている流れで、気づいたら自分から話しはじめていた、というのが正直なところです。
SS400、S45C、SUS304。こういう記号、現場にいると本当によく出てきます。会話の中でも出てきますし、図面の材質欄にも書いてあります。工具を選ぶときも、条件を調べるときも、そして材料の重さをざっくり目測するときも、気づけばこの記号を頼りにしています。毎日のように目にしているのに、意味を聞かれるとちゃんと答えられる人は意外と少ないんじゃないかと思います。
暗号みたいに見えるかもしれませんが、実はそんなに難しい話ではありません。今日はそこを、できるだけかみくだいて書いてみます。
この記事でわかること
- 材料記号の頭文字と数字が、それぞれ何を表しているか
- 現場でまず覚えておきたい3つの記号(SS400・S45C・SUS304)の中身
- 記号にまつわる、世間でよくある3つの勘違い
記号は「名札」──頭文字と数字、それぞれ何を表しているか
材料記号は、暗号ではなく「名札」のようなものだと私は思っています。頭文字の部分がその材料の系統(どんな仲間の材料か)を表し、そのあとに続く数字が強さや量の目安(記号によっては種類番号)を表している──ざっくり言うとこれだけです。SならSteel(鋼)の仲間、SUSならステンレスの仲間、という具合に、頭文字を見ればだいたいの系統がわかります。そして数字の部分は、記号によって「強さ」だったり「量」だったりと意味が変わります。世間的にもここが記号を読むときにいちばん間違えやすいところだと言われていて、この記事の本題でもあります。

まずはこれから!一般的な鋼材、SS400・S45C・SUS304
材料記号は種類がとても多くて、最初から全部を覚えようとすると大変です。でも、大丈夫。現場でよく出てくる、一般的な鋼材から覚えていけばいいんです。私の前の職場の実感では、鋼の仲間、炭素鋼の仲間、ステンレスの仲間──それぞれの中で、実際によく使う記号は1種類程度に収まることが多かったです。工場によって扱う材料は違うので、まずは入口として、この3つから覚えていけば大丈夫です。
というわけで、この3つの中身を、順番に分解していきます。
SS400を分解する──「一般構造用鋼」、400は引張強さの下限
SS400は、JIS G 3101「一般構造用圧延鋼材」に定められた鋼材で、以前の温度補正の記事でも使った表記に揃えて「一般構造用鋼」と呼んでいます。SSは「Steel Structure」の略と言われています(規格票に正式な英語表記として明記されているかまでは確認できていないので、あくまで業界でよく言われている通称として書いておきます)。
数字の400は、引張強さ(材料を引っ張ったときにどれだけの力に耐えられるか)の下限を表しています。規格上は400〜510N/mm²というレンジがあり、400はその下側の目安です。ここ、誤解している方も多いのですが、降伏点(材料が変形しはじめる力)の数値ではありません。降伏点はまた別の、もっと低い値になります。
SS400は炭素やけい素、マンガンの量がJISで細かく規定されていません(りんと硫黄の上限だけが決まっています)。だから安くて手に入りやすく、「とりあえず一般的な強度でよければSS400」という万能選手のポジションにいます。ただし炭素量が規格で保証されていない分、焼き入れ(熱を加えて硬くする処理)を前提にした部品にそのまま使うと、期待通りの硬さが出ないことがあります。この万能さと引き換えの注意点は、覚えておいて損はありません。
余談ですが、材料の重さをざっくり目測するときも、私はこの記号を手がかりにしています。「この鉄、何キロ?」という記事で比重の目安表を作ったのですが、あの表にもSS400が「鉄・鋼」の代表として登場しています。あわせて読んでもらうと、記号と重さのつながりも見えてくると思います。
S45Cを分解する──炭素量0.42〜0.48%、焼きが入る鋼
S45Cは、JIS G 4051「機械構造用炭素鋼鋼材」に定められた鋼材です。S(Steel)+数字2桁+C(Carbon)という並びで、この数字がそのまま炭素の含有量を表しています。S45Cの場合は炭素量0.42〜0.48%というのが規定値です。「45」は直径でもロックウェル硬度でもなく、炭素の割合(パーセント)を100倍した目安、と覚えておくのが正確です。
炭素量が多いということは、それだけ焼き入れで硬くなりやすい鋼だということです。SS400と違ってこちらは「炭素鋼」というだけあって、熱処理を前提に選ばれることが多い材料です。ただし、買ってきたそのままの状態(生材)ではさほど硬くありません。硬さが出るのは、焼き入れ・焼き戻しといった熱処理をしたあとの話です。
ひとつだけ付け加えておくと、太い丸棒を丸ごと焼き入れしても、中心部までは硬くなりきらないことがあります。冷却が芯まで行き渡らないためで、これは「質量効果」と呼ばれる現象です。ここは深入りすると長くなるので今日は一言だけ触れるにとどめますが、「太ければ太いほど、外側と中心で差が出やすい」ということだけ、頭の片隅に置いておいてもらえればと思います。ちなみに比重で言えば、S45CもSS400と同じ「鉄・鋼」のグループに入り、重さの感覚はほぼ変わりません。
SUS304を分解する──18-8ステンレス、磁石にまつわる勘違い
SUS304は、形状によってJIS G 4303(棒)・G 4304(熱間圧延鋼板・鋼帯)・G 4305(冷間圧延鋼板・鋼帯)のいずれかに定められているステンレス鋼です。SUSは「Steel Use Stainless」の略と言われていますが、英語としてはやや不自然な語順で、和製の略号ではないかとも考えられます。こちらも正式な英語表記と断定はできないので、通称として捉えておくのが安全です。現場では「エスユーエス」ではなく「サス」と読むのが一般的です。
実は私も昔、「304って何の数字だろう?」と思ったことがあります。答えを先に言うと、400や45と違って、数字の304は、規格上の鋼種を区別するための型式番号です。クロム(Cr)18〜20%、ニッケル(Ni)8〜10.5%というのが規定値で、この18と8を取って「18-8ステンレス」という呼び方もよく使われます。
SUS304にまつわる話でよく聞くのが、磁石の勘違いです。世間では「ステンレスは磁石につかない」というイメージが広まっていますが、これは半分正解で半分誤解です。SUS304(オーステナイト系という種類のステンレス)は、一般的な固溶化熱処理(こようかねつしょり。高温に保ってから急冷する処理)をした状態では、ほとんど磁石につきません。ところが、曲げたり絞ったり削ったりといった冷間加工を受けた部分には、加工誘起マルテンサイト(かこう・ゆうき・マルテンサイト。冷間加工によって組織の一部が変化する現象)が生じて、わずかに磁石につくようになることがあります。「磁石についたから偽物だ」という判断は、実は正しくないんですね。これは私の体験談というよりは、世間でもよく言われている話として知っておくと役に立ちます。
早見表──記号・読み方・ざっくり意味
| 記号 | 読み方 | ざっくり意味 | 現場でのひとこと |
|---|---|---|---|
| SS400 | エスエス・ヨンヒャク | 一般構造用鋼。400=引張強さの下限 | とりあえずの万能選手。炭素量は保証なし |
| S45C | エス・ヨンゴー・シー | 機械構造用炭素鋼。45=炭素量0.42〜0.48% | 焼きが入る鋼。生材はさほど硬くない |
| SUS304 | サス・サンマルヨン | 18-8ステンレス。Cr18〜20%・Ni8〜10.5% | 加工した部分は磁石につくことも |
この3つ、丸棒や板の見た目だけではほとんど区別がつきません。だからこそ記号の意味を知っておくことには、実務的な意味があります。もし熱処理を前提にした部品にSS400が紛れ込んでいたら期待した硬さが出ないかもしれませんし、さびに強いはずの部品に、SUS304のつもりでSS400やS45Cが紛れ込んでいたら、あっという間にさびてしまうかもしれません。「〇〇という事故が実際に起きています」というような話ではありませんが、見た目が同じだからこそ、記号を正しく読めること、そしてミルシート(鋼材検査証明書)で受け入れ時に確認することが、地味に安全につながっているんだと思います。
よくある勘違い3つ
ここまでの内容と少し重なりますが、材料記号にまつわる勘違いは世間でもよく見かけるので、3つだけ整理しておきます。
1つ目は、SS400の「400」を降伏点だと思ってしまう勘違いです。正しくは引張強さの下限で、降伏点はもっと低い、別の数値になります。
2つ目は、S45Cの「45」を直径や硬度だと思ってしまう勘違いです。正しくは炭素含有量の目安(0.42〜0.48%)で、寸法や硬さの数値ではありません。
そして3つ目、SUS304が磁石につくと「偽物だ」「ステンレスじゃない」と思ってしまう勘違いです。加工を受けた部分は磁石にわずかに反応することがあり、それ自体は珍しいことではありません。
どれも「なんとなくのイメージ」と「規格上の実際の意味」がずれているだけです。規格上の意味を知っておけば、迷ったときにすぐ区別できます。

まとめ
少し前の記事、工具カタログをAIと一緒に読んでみた話では、SUS304を実際の加工材料として使いました。もしあの記事を読んでいたなら、あらためて聞いてみたいのですが──あの304、何の数字だったか、説明できそうでしょうか。この記事を読んだあとなら、きっと答えられるはずです。
そして、材質が変われば、条件も変わります。「切削条件ってなに?」という記事でも書きましたが、切削条件を左右する要因のひとつが「材質」でした。記号が読めるようになると、条件表のどの行を見ればいいかも、少しわかりやすくなると思います。
長くなったので、もう一度だけまとめます。
- 材料記号は暗号ではなく「名札」。頭文字が系統、数字が強さや量の目安
- 現場で使う記号は分類ごとにだいたい1種類。まずは一般的な鋼材、SS400・S45C・SUS304の3つから
- SS400の400は引張強さの下限(降伏点ではない)、S45Cの45は炭素量(直径や硬度ではない)、SUS304が磁石につくのは珍しいことではない
全部を一気に覚えなくても大丈夫です。まずはこの3つの記号を、今日から少しだけ気にして見てみてください。もっと詳しく知りたくなったら、JISC(日本産業標準調査会)の「JIS検索」というページで、規格の内容を無料で見ることができます。気になった記号があれば、そちらもあわせてのぞいてみてください。
→ あわせてどうぞ!
(表面粗さ・粗さ計は「粗さの記号」の話で、今回の「材質の記号」とはまた別物です。混同しないよう、あわせて読んでみてください)
以上、ご安全に!!







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