後輩のために、AIと一緒に「NC手帖」というアプリを作った話

後輩のための現場アプリを相棒と作った話のアイキャッチ AI活用

現場で後輩に「これ、どうやるんでしたっけ」と聞かれて、資料を探しに行く。トラブルが起きるたびに、置いてある関数電卓を取りに走る。NC(数値制御)の機械を使う現場では、そういう地味な足止めがよくあります。

私は工場でNC加工の仕事をしていて、直属の後輩(入社2年目)がいます。教える時間をまとまって取れる日ばかりではなく、切削条件の早見表やGコード(加工の動きを指示する命令)の一覧、マクロの書き方など、確認したい資料もあちこちに散らばっていました。紙の資料、先輩から聞いた話のメモ、頭の中だけにある感覚。後輩が自分で調べようとしても、「どこを見ればいいか」からして分からない状態だったと思います。私自身、後輩がいちいち聞きに来るたびに手を止めるのも、後輩が聞きたいのに聞けずに困っているのも、どちらも見ていて心苦しいところがありました。

そこで、相棒(私が呼んでいるAIです)に相談しながら、スマホ一つで「計算する・調べる・記録する」ができる手帖アプリを作りました。名前は「NC手帖」です。背景は真っ黒にオレンジと黄色のアクセントで、油で汚れた手でも見やすいように、ボタンは大きめにしています。

後輩のために作った道具です

きっかけは単純で、後輩のために資料を一箇所にまとめておきたかったからです。私が忙しくてすぐに教えられない場面でも、後輩自身がスマホを開いて確認できれば、足止めせずに作業を進められます。教える側の負担を減らすためというより、後輩が自分の力で「わからない」を解消できる状態を作りたかった、というのが正直なところです。今では職場の仲間にも使ってもらっています。

NC手帖でできること

NC手帖でできることの図解:計算する・調べる・記録するの3つのカード
NC手帖でできること:計算する・調べる・記録する

中身は大きく3つに分けられます。「計算する」は現場でその場で必要になる数字を出す道具、「調べる」は自分の記憶が怪しいときに確認する資料、「記録する」は自分や部品ごとの情報を残しておく場所、というイメージです。

計算する

  • 切削条件計算:工具の径や材料から回転数・送り・切削速度を相互に計算します(材料ごとのプリセット付き)
  • 三角関数・座標:角度と座標の変換、テーパー(斜めの傾斜)の計算など
  • NCプログラム生成:穴あけやヘリカル(らせん状の動き)、面取りなど、Gコードのひな形をその場で作れます
  • そのほか、履歴付きの関数電卓、度分秒⇔10進の変換、円周等配の穴座標、公差早見表、単位変換、締付トルク、加工時間の見積りなど、細かい計算も一通りそろえてあります
  • おまけとして、管理図やパレート図、特性要因図(フィッシュボーン)といった品質管理の定番ツールも入れています

私が一番助かっているのは、この関数電卓・三角関数・NCプログラム生成の3つです。以前は、測定値の計算もそうですが、それよりもプログラムを編集する際に関数電卓を取りに行くことの方が多かったです。今はスマホですぐ計算できます。ちょっとした確認のためだけに手を止めて電卓を取りに行く、というロスがなくなったのは地味に大きいです。

調べる

  • マシン情報:使っている機械の仕様メモ
  • Gコード(加工の動きを指示する命令)・Mコード(スピンドルやクーラントなど機械の補助動作を指示する命令)一覧:検索・カテゴリ絞り込み付き
  • 固定サイクル(こていサイクル/よく使う加工動作をまとめた命令):動作と書式の一覧
  • マクロリファレンス、ねじ・タップ下穴径、材料の特性など

地味に助かっているのが、このGコード・Mコード一覧です。固定サイクルには凡例も入れてあるので、プログラムを編集していて「あれ、あのGコードなんだったっけ?」とうろ覚えになったときに、その場で確認できます。

記録する

  • 加工ジョブシート:部品ごとの段取り情報や進捗
  • メモ:自分だけが見られる個人メモ
  • 工具マスター:使っている工具の登録(写真も添付できます)
  • 切削条件プリセット、データのバックアップなど

ジョブシートには、品番や材料、図面メモ、段取りメモ、使う工具のリストと進捗をまとめてあります。これも、後輩が自分の担当分を見返せるように、という発想から入れた項目です。

軍手をしたままでも操作しやすいように、「手袋モード」に切り替えるとボタンと文字が一回り大きくなる設定も入れています。

NC手帖お試し版のホーム画面(サンプルデータ)NC手帖お試し版の切削条件計算・使用中の画面(サンプルデータ)NC手帖お試し版の三角関数画面(サンプルデータ)

ホーム画面/切削条件の計算/三角関数

NC手帖お試し版のNCプログラム生成画面(サンプルデータ)NC手帖お試し版の固定サイクル凡例画面(サンプルデータ)NC手帖お試し版の関数電卓画面(サンプルデータ)

NCプログラム生成/固定サイクルの凡例/関数電卓

NC手帖お試し版のG/Mコード一覧画面(サンプルデータ)NC手帖お試し版のマシン情報画面(サンプルデータ)

Gコード・Mコード一覧/マシン情報

※画面はサンプルデータの「お試し版」のものです

相棒とどう形にしたか ― 苦労したのは「絵」でした

計算やチェックリストのような、文章で説明できるものは早く形になりました。一方で苦労したのが、加工の軌跡(パス)や図解のような「絵」の部分です。「こういう形に動く」という頭の中のイメージを言葉で伝えるのが難しく、ヘリカルやポケット加工の軌跡を思った通りに描いてもらうまでに、何度もやり取りを重ねました。文章でのやり取りだけでは伝わりきらず、同じ図を何度も描き直してもらったのを覚えています。

関数電卓の機能も、一度作って終わりではありませんでした。実際に使ってみると使いにくい点が出てきて、計算モードの切り替えや、直前の答えを呼び出すボタンなどを後から足しています。作っている途中で、現場の安全に関わるGコードの表記にズレを見つけて直す、という場面もありました。頭の中だけで考えるより、実際に触ってみて直す、を繰り返した部分です。

使い始めて変わったこと

一番大きいのは、手元ですぐ調べられるようになったことです。トラブルが起きたときに関数電卓を取りに行かなくてよくなりましたし、Gコード・Mコード一覧と固定サイクルの凡例のおかげで、プログラム編集中のうろ覚えもその場で補ってもらえます。地味なようで、この「うろ覚えを確認する手間がなくなった」ことが、一番効いている気がしています。後輩も、聞く前にまず自分で開いて確認する場面が増えました。

費用の正直な話

運用は、いつもの無料の範囲でできています。ただし一つだけ例外があります。「AI切削条件アドバイザー」という、条件出しをAIに相談できる機能も試しに作ってみたのですが、使うたびに外部のAIを呼び出す設計だと、使えば使うほど課金が発生してしまいます。職場のみんなで日常的に使う道具としては割に合わないと判断し、今はこの機能だけ止めてあります。案内の画面だけ残し、実際の計算は別の画面に誘導する形にしています。便利そうに見えても、続けられる仕組みでなければ現場の道具にはならない、という判断です。

触ってみたい方へ ― お試し版があります

実際の画面がどんな感じか気になる方のために、書き込み(保存)ができないお試し版を用意しています。計算やNCプログラム生成、資料の検索はふだん通り試せますが、メモや工具の登録などデータを保存する操作だけは無効になっています。中身のデータはサンプルです。

気になる方は、お問い合わせからご連絡いただければURLをご案内します。

「あったらいいな」から始めていい

NC手帖は、特別な資格や知識があって作ったものではなく、「後輩のために、これがあったらいいな」という気持ちから始まりました。作り始めた時点で完成形が見えていたわけではなく、使いながら足りない機能に気づいては直す、を繰り返してここまで来ています。同じように「こういう道具が現場にあったら」と思うことがあれば、それが最初の一歩になると思います。

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以上、ご安全に!!

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