【計算ツール付き】温度補正は“ほぼ要らない”場面がある?|ワークと測定器をそろえる話

測定の温度補正 アイキャッチ(作業台のマイクロメータ・ノギス・温度計と工房) 工場生活

夏場の現場で、朝イチに測った寸法と昼過ぎに測った寸法が、なんだか違う……と感じたことはありませんか。私も現場では「あれ、さっきと違うぞ」と首をかしげたことが何度もあります。原因のひとつが、今日のテーマ「温度」です。

金属は温まると伸びます。だから、測るときの温度で寸法はほんの少し変わります。図面の寸法は「20℃のときの値」と決まっているので(これは規格でそう決められています)、20℃以外で測ると、その伸びた分だけズレてしまうんですね。

そこで出てくるのが温度補正(おんどほせい)=測った値を「20℃のときの寸法」に計算で直すこと。私は前の職場でこの考え方を教わったのですが、「室温が26℃だから、その分を引けばいい」と一律にやってしまうと、場面によっては“やりすぎ”になることがあります。意外と知られていないところなので、今日はここをていねいに見ていきますね。

この記事では、私なりにかみくだいた「温度補正の考え方」と、現場で使える早見表・その場で計算できるツールをまとめました。数字を扱う話ですが、できるだけ平場でいきますね。

いちばん大事な話:温度がそろっていれば、20℃じゃなくてもいい

先に結論からいきます。

ワークと測定器が「同じ材質」で「同じ温度」なら、20℃でなくても──理論上は何℃でも──温度補正は要りません。

両方が同じだけ伸びて、測定器の目盛りもワークも同じ割合で伸びるので、差し引きゼロ=「20℃のときの値」がそのまま読めるからです。

だから本当に効くのは「室温が何℃か」ではなく、「ワークと測定器の“温度”と“材質”がそろっているか」なんですよね。ここを押さえておくと、いらない補正で悩まなくて済みます。

ただし、成り立つには2つの条件があります。

  • 「同じ温度」=本当になじんでいること。削りたてのワークは熱いですし、素手でギュッと握れば手の熱(約33℃)が移ります。室内の温度ムラもあります。だから「なじませてから測る」とセットです。“温度を気にしなくていい”という意味ではありません。
  • 「同じ材質」=膨張率(ぼうちょうりつ)がほぼ同じこと。同じ「鋼(はがね)」でも、炭素鋼とステンレス(SUS304)では伸び方が約1.5倍も違います。ここは要注意です。

私たちの現場に置きかえると、こうなります。

  • 鋳鉄(FC・FCD)を鉄の測定器で測る → 膨張率がほぼ同じ → 温度をそろえれば換算いらない
  • 鋳造アルミを鉄の測定器で測る → 別の材質 → 温度をそろえても“差”の分だけ換算が残る
外側マイクロメータを素手で握る様子と手の熱のイメージ
素手で長く握ると、手の熱(約33℃)が測定器やワークに移り、せっかくそろえた温度がずれてしまいます。

よくある落とし穴:測定器の温度を無視して、ワークだけ換算

現場でよくある勘違いが、これです。「室温26℃だから」とワークだけを換算して、測定器の温度を気にしない。でも測定器(マイクロメータ)だって、同じ現場で一緒に温まって伸びています。その分まで引いてしまうと、引きすぎ=過補正(かほせい)になるんです。

正しくは「ワークと測定器の“差”」で見ます。

  • 鋳鉄 × 鉄の測定器:膨張率がほぼ同じなので、本当は補正ほぼゼロが正解。なのに丸ごと引くと、100mmで約7µm(0.007mm)も小さく評価してしまいます。
  • 鋳造アルミ × 鉄の測定器:アルミは鉄の約2倍膨張します。でも本当は“差”の分だけでいいのに、丸ごと引くと本来の約2倍引きすぎてしまいます。

良品が「ちょっと小さめ」に出て、静かにはじかれる──こういう片寄りは気づきにくいので、正直こわいところなんですよね。。。笑

手持ちの測定器と、三次元測定機で話が違う

ここも混乱しやすいところです。同じ“温度補正”でも、測定器の温度が違うので考え方が変わります。

手持ち測定器(マイクロ等) 三次元測定機(検査室20℃)
測定器の温度 ワークと同じ現場温度(例:26℃) 20℃が基準(温度センサで補正、または超低膨張スケール)
考え方 “差”で見る(ワークだけの換算はNG) ワーク側を20℃で評価でOK
注意 ワークと測定器を同じ温度になじませる 熱いまま測ると、部屋が20℃でも誤る(なじませてから)

三次元でもうひとつだけ。現場や倉庫から持ってきたばかりの熱いワークを、そのまま測らないこと。あと、機械に材質ごとの膨張率を入れて補正する場合は、鋳鉄(約11)と鋳造アルミ(約21)は約2倍違うので、アルミなのに鋼の設定のままだと補正が半分になってしまいます。材質を変えたら設定の確認を、ですね。

材料の膨張率 早見表(20〜100℃あたり)

材料 α(×10⁻⁶/℃) ひとこと
測定器用鋼(ブロックゲージ等) 11.5〜11.7 補正の基準になる側
一般構造用鋼 SS400 約11.7 よく使う鋼材
灰鋳鉄(ねずみ鋳鉄・FC200/FC250 等) 約10.5〜11.4 鋼よりやや小さめ
ダクタイル鋳鉄(FCD450/FCD600 等) 約10.5〜12.5 鋼と同程度〜やや上
鋳造アルミ(AC4C/A356 等) 約21〜21.4 純アルミよりやや小さめ
鋳造アルミ(ADC12/A380 等) 約21 ダイカスト系
純アルミ 23.6 参考
ステンレス SUS304 約17.2 “鋼”でも炭素鋼と大きく違う

※数値は代表値です。同じ材料名でも、材種・組織・温度域で1割前後ばらつきます。厳密な検査は20℃の恒温室が基本です。

その場で計算:温度補正ツール

測る寸法(長さでも径でもOK)と、ワーク・測定器の温度と材質を入れると、ずれ量「20℃に直した寸法」、そして「補正いる/ほぼ不要」の目安が出ます。スマホでも動きますので、現場でちょっと確かめたいときにどうぞ。

温度補正 かんたん計算

測定値を「20℃のときの寸法」に直します。ワークと測定器の温度・材質を入れてください。各欄の右のタグは、下の式のどこに入るかを表します。



※径(直径)を測るときも、その値をそのままLに入れてOK(直径も同じだけ伸びます)





温度によるずれ量 ΔL=

ΔL L ×〔 α(ワーク) ×(ワーク温度 −20) α(測定器) ×(測定器温度 −20) 〕

20℃換算値 測定値 ΔL

αは代表値です(材種・組織・温度域で1割前後ばらつきます)。厳密な検査は20℃の恒温室が基本。合否判定は自社の品質規定に従ってください。

まとめ:まずは“温度をそろえる”から

むずかしい計算より先に、できることがあります。

  • 削りたての熱いワークは、そのまま測らない
  • ワークと測定器を、同じ場所になじませてから測る
  • 同じ材質・同じ温度でそろえば、何℃でも換算いらない(むやみに室温換算して過補正しない)
検査室の台に金属部品を並べて温度をなじませている様子
ワークと測定器を同じ場所になじませてから測るのが基本。温度がそろえば換算いらずで、いちばん確実です。

まずはこの1つ、「なじませてから測る」だけでも、測定値はぐっと安定します。教わる機会が意外と少ない話なので、現場で共有してもらえたら嬉しいです。少しずつ、一緒に精度を上げていきましょう。

【出典】ISO 1/JIS B 0680(寸法計測の標準温度20℃)、JIS B 7506(ブロックゲージ)、NIST、Mitutoyo・Hexagon・Renishaw 技術資料。数値は代表値で、材種・温度域により幅があります。本記事は一般的な考え方の整理です。実際の合否判定や手順は、各社の品質規定・作業標準に従ってくださいね。

あわせてどうぞ!

 

 

現場で使える計算ツールシリーズ

このブログには、現場でそのまま使える計算ツール付きの記事が他にもあります。あわせてどうぞ!

以上、ご安全に!!

コメント

タイトルとURLをコピーしました