「そのノギス、シールの期限、見てますか」。前職で、後輩や新人さんに測定具の扱いを教えるときに、伝えてきたことです。
前職で技術職をしていたころ、お客様から「トレーサビリティ体系図を出してください」と言われたことがあります。【製造業の基礎】シリーズの第5弾は、校正(こうせい)という言葉の整理と、体系図が何を証明しているのか、そして現場で測定具をどう分けて管理するか、という話です。
この記事でわかること
- 0点合わせは校正ではない。校正・調整・点検・検査、それぞれ何が違うのか
- トレーサビリティ体系図が証明しているのは、国家標準までの「つながり」だということ
- 記録に残す測定は校正済みの測定具で。校正品と目安の道具の分け方
- 校正の間隔(周期)は一律に決まっておらず、使い方に応じて職場が決めること(業界や取引先の基準があれば、それに従う)
校正ってなに?──似た言葉との違いから
現場でよく聞く言葉に、校正(こうせい)・調整(ちょうせい)・点検(てんけん)・検査(けんさ)、そして0点合わせ(ゼロてんあわせ)があります。前の職場では、製品の記録に残す測定には、番号で管理された校正済みの測定具を使うのが当たり前でした。それでも、この4つの言葉は似た場面で使われるので、混同されがちです。

整理すると、こうなります。
- 校正:基準になる標準器(ひょうじゅんき。自分よりずっと正確な”物差し”)と比べて、今の測定具にどれくらいズレがあるかを確認すること。いわば「値付け」で、ズレを直す作業は含みません。
- 調整:ズレを、実際に直すこと。校正の結果を見て、必要なら行います。
- 点検:使う前や日常的に、ガタつきやキズ、ゼロ点のずれがないかを目で確かめること。
- 検査:ここでは測定具の検査のこと。校正で出た結果を、決めた合格基準と見比べて、その測定具を使ってよいかを判定すること(製品の検査とは別の話です)。
この中で、意外と誤解されやすいのが0点合わせです。ノギスのジョウ(はさむ部分)を閉じて0を確かめたり、マイクロメータのシンブル(回す筒)の0の目盛線を基準線にそろえたりする、あの動作です。現場ではまとめて「0点合わせ」と呼びますが、0を確かめるだけなら日常の点検、ずれた0を合わせ直すのは、規格の言葉でいう「ゼロ調整」という調整の一種です。計測用語の規格(JIS Z 8103)には、調整は校正と混同しないように、とわざわざ注記があります。つまり0点合わせは、校正そのものではありません。校正は、あくまで上位の標準器と比べて値を確認する、別の作業です。とはいえ、0点合わせ自体をやらなくていい、という意味ではありません。使う前のひと手間として、これからも大切にしたい確認です。
※補足:校正のやり方をまとめた別の規格(JIS Z 9090)のように、日常の零点の点検や修正まで含めて「校正」と呼ぶ考え方もあります。この記事では、計測用語の規格(JIS Z 8103)に沿って、校正証明書が出る校正と、日常の0点合わせを分けて整理しています。
ノギスやマイクロメータだけの話ではありません。この連載で紹介した粗さ計(あらさけい)のような測定機器そのものにも、同じように校正が必要です。
トレーサビリティ体系図の読み方──「物差しのつながり」をたどる
あのとき、お客様から求められたのが、まさにこの体系図でした。担当部署に相談して体系図をもらい、校正証明書のコピーと一緒に提出しました。振り返ってみると、あのとき初めて、体系図が何を表しているのか、自分の中でちゃんと理解できた気がします。

体系図が示しているのは、現場の一本のノギスが、産総研(さんそうけん。国の研究機関)が管理する国家標準まで、ひと続きの「物差しのつながり」でたどれる、ということです。国家標準の値は校正機関や社内の基準器(きじゅんき。ブロックゲージなど)へ、そこからさらに現場の測定具へと、校正のたびに受け渡されていきます。
ここで押さえておきたいのは、体系図が証明しているのは”つながり”であって、「その測定具が今この瞬間も絶対に正確」ということまでは保証していない、という点です。体系図は「つながり」の見取り図で、それを裏づけるのが一本一本の校正証明書です。だからこそ、校正の間隔や、使う前の点検に意味が出てきます。
校正の中には、JCSS(ジェーシーエスエス)という国の登録制度にもとづくものもあります。JCSSのマークが付いた証明書は、国家標準までのつながりが特に厳格に確認されている目印ですが、これは校正事業者が任意で登録する制度です。JCSSのマークが無い校正だからといって、無効というわけではありません。
現場でやること4つ

体系図の意味が分かったところで、現場で気をつけていることを4つにまとめます。
- 使う前に、まずシールを見る。ノギスやマイクロメータには、校正の実施日と次回の期限、管理番号が分かるシールが貼られていることが多いです。期限が近づいていないか、切れていないかを確かめる習慣です。前職では、使う前にこのシールを見る習慣がありました。あるとき、期限の切れた測定具に気づいて、使用をやめて担当の部署に出したことがあります。巡視や後輩の指導のときに、自分以外の人の測定具の期限切れに気づいたこともあります。
- 校正品と、目安の道具を分けて管理する。製品の記録に残す測定には、番号で管理された校正済みの測定具を使う。前の職場では、それが当たり前でした。一方で現場には、正式に校正された測定具のほかに、自分で作った特殊な形のゲージや、目安として使うスケールが登場することもあります。パッと見て「校正品」か「目安用」かが分かるように、きっちり分けて管理すること。目安の道具は、合否の判定にそのまま使わないことです。
- 値がずれていたら、まず使用を止める。基準器と比べて値がずれる原因は、摩耗や打痕、落下といった扱い方であることが多いというのが私の実感です(温度がそろっていても、扱い方でズレることがあります。温度の話はこちら)。おかしいと感じたら、その場で使うのをやめて、担当の部署に出す。前職では、担当の部署に集めて校正してもらう流れがありました。
- 校正の間隔は、一律には決まっていない。「校正って何年おきにすればいいんですか」と聞かれることがあります。実は、間隔そのものの長さを、法律や規格が一律に決めているわけではありません。使う頻度や重要度に応じて、職場や担当者が決めるものです。ただし、業界の規格や取引先の要求、法律(取引や証明に使うはかりなど)で間隔が決まっているものは、それに従います。実務では1年ごとを目安にしている会社が多いようですが、これはあくまで目安であって、決まりではありません。とはいえ、間隔に決まりがないからといって、期限が切れたものを自分の判断だけで使い続けていいわけではありません。校正が必要かどうかや間隔の目安は、職場のルールや客先の要求によっても変わりますから、迷ったときは、まず担当の部署に相談してください。
まとめ
今日お話ししたことを、簡単にまとめておきます。
- 0点合わせは校正ではありません。校正は「値付け」、調整は「直すこと」、点検は「日常の確認」、検査は「合否の判定」。
- トレーサビリティ体系図が証明しているのは、国家標準までの”つながり”です。
- 記録に残す測定は、校正済みの測定具で。校正品と目安の道具は分けて管理し、使う前にシールを見る。おかしいと感じたら使用を止める。
- 校正の間隔は一律には決まっていません。業界や取引先の基準があればそれに従い、なければ使い方に応じて職場が決めます。
自分が測った値は、次の工程の仲間が、そのまま信じて使います。校正は、自分のためだけの作業ではないと思っています。
出典・参考にした資料
- JIS Z 8103:2019(計測用語)──校正・検証の定義と注記
- JIS Q 9001(品質マネジメントシステムの規格)──測定機器の管理に関する要求事項
- JIS Z 9090:1991(測定―校正方式通則)──校正の作業を「点検」と「修正」で組み立てる、別の考え方の規格
- 製品評価技術基盤機構(NITE)「JCSSの概要」
- 日本電気計器検定所(JEMIC)「校正の有効期限(校正周期)について」
- ミツトヨ公式サイト「ノギスの正しい使い方、読み方と注意点」
校正の要否・間隔・外部校正の要否は、職場のルール・客先要求・認証の有無によって異なります。実際の判断は、各職場の規定と担当部署に従ってください。
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以上、ご安全に!!





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