【現場からの提案】AIを導入しましょう。スマホを配りましょう|まずは現場の「二度手間」から

現場からの提案。作業員がスマホを手に、管理職へAI導入とスマホ支給を提案するイラスト AI活用

私は工場で現場作業をしている、いち社員です。今日は少し珍しいテーマで書かせてください。

「AIを導入しましょう。スマホを配りましょう」──そんな提案を、管理職や経営者の皆さんに向けて書きます。ただ、先に断っておきたいことがあります。この記事は、現場から会社の姿勢を批判するために書くものではありません。むしろ逆です。管理職の皆さんが抱えている難しさを私なりに想像しながら、一緒に考えたくて書いています。

「AIだ、DX(デジタルトランスフォーメーション/デジタル技術で仕事のやり方を変えること)だと言われても、何から手をつければいいのか分からない」「そもそも効果があるのかも見えない」「予算も人も限られている」──そう感じている方は、決して少なくないはずです。実際、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)の調査でも、DXに取り組まない理由として最も多いのは「効果や成果が見えないから」で23.9%、次いで「予算不足」23.6%、「自社の規模的に不要」21.0%、「推進できる人材がいない」18.1%という結果が出ています(中小機構「中小企業のDX推進に関する調査」2024年12月公表)。ちなみに「経営者・従業員の意識・理解不足」という項目は10.0%で、実は一番下でした。現場の意識が低いから進まない、という単純な話ではないということです。予算も人も足りない中で、効果の見えないものに手を出せない──よく分かります。

この記事でわかること

  • 現場にこそAIとスマホが必要な理由(AIの恩恵が一番現場に届いていない現状)
  • 「順番が逆」──改善は現場の困りごとから始めると仕事が減ること
  • 明日からできる、小さく始める3つのこと

現場から見えている景色

その一方で、現場で働いている私の目には、少し気になる景色も見えています。あくまで私の実感ですが、これまで働いてきた職場では、どこも似た傾向がありました。

2026年版中小企業白書(中小企業庁、2026年4月公表)に載っている帝国データバンクの調査データを見ると、それが数字にも表れています。AIを「活用している」と答えた割合は、バックオフィス部門で73.4%(n=1,577)、営業・販売・顧客対応部門で68.2%(n=1,605)なのに対し、製造・生産管理・物流部門は57.2%(n=1,210)と、現場に近い部門ほど活用が遅れています。ITツール全体の活用率でも、全体が70.2%であるのに対し、製造業は60.0%(n=1,508)と低めに出ています(2026年版中小企業白書)。

部門 AI活用率
バックオフィス部門 73.4%(n=1,577)
営業・販売・顧客対応部門 68.2%(n=1,605)
製造・生産管理・物流部門 57.2%(n=1,210)
▲部門別のAI活用率(2026年版中小企業白書/帝国データバンク調査)

要するに、AIの恩恵が一番現場に届いていない、ということです。オフィスの効率化は進む一方で、現場は紙とハンコと手書きのままだった、という話を、私はこれまでいくつもの職場で見聞きしてきました。

もう一つ、印象に残っている経験があります。ある職場で、紙の書類をスキャンしてPDFにしたものを渡され、「これがデータだから」と言われたことがありました。ですが、PDF(紙を画像として写しとったファイル)は、いわば紙を写真に撮ったようなもので、中の数字を検索することも、計算に使うこともできません。結局、私はその内容を、あらためて一から入力し直すことになりました。デジタル化した「つもり」で止まっていて、現場ではまだ使える形になっていない――そんな場面も、少なくないのだと思います。

なぜこうなるのか、私なりに考えてみたことがあります。調査には出てこない話かもしれませんが、あくまで私の実感として聞いていただければと思います。デジタル化やAIで、実はいちばん恩恵を受けられるのは、現場よりもむしろデスクワークの側ではないかと感じています。調べ物の時間は短くできますし、資料や議事録は、たたき台をAIに作ってもらえます。発注のような定型の仕事は自動化しやすいですし、ファイルの整理も手伝ってもらえます。探せば、まだまだ出てくるはずです。後ほど詳しくお話しする、点検表の入力し直しも、その一つです。

そして、AIやデジタル化の導入を検討し、会社としての判断を仰ぐのも、同じデスクワークの側であることがほとんどです。自分の仕事が減るかもしれない変化を、自分から言い出せる人は多くありません。これは意識が低いとか、やる気がないとかいう話ではなく、人として自然なことだと思います。私自身、もし逆の立場だったら、きっと同じように及び腰になると思います。

だからこそ、この話は「気づいた誰かが自然に進めてくれる」ことを期待しにくい構造になっているのだと思います。決める立場の方が「やる」と言わない限り、誰も動き出せません。私が現場からこの記事を書いて、経営層の皆さんに向けてお願いという形で届けているのも、それが理由です。

デスクワークの伸びしろ図解。調べ物・資料と議事録・発注・ファイル整理・点検表の入力し直し。動かすスイッチは決める人の手元に

順番が逆なんです

ここが、私がこの記事で一番伝えたいところです。改善は、現場の困りごとから始めると仕事が減ります。逆に、上から降ってくると仕事が増えます。

「AIを使って何か改善しよう」という話が持ち上がったとき、よくあるのが、現場が実際に何に困っているかを聞かないまま、良さそうな仕組みを考えて、現場に「使ってください」と降ろすパターンです。現場からすると、望んでもいなかった新しい作業がひとつ増えるだけ、ということが少なくありません。

その典型が、点検表や検査記録の二度手間です。紙に手で書いて、それを後で誰か(多くの場合は現場の人自身か、事務方の誰か)がパソコンに入力し直す。この「書く→また入力する」という作業を、私はこれまでの職場でずっと見てきました。

ここは、実は一番AIとスマホで消しやすい場所でもあります。スマホのフォームに直接入力すれば、その場で記録が完了します。QRコード(四角い模様をスマホのカメラで読み取ると、情報を呼び出せる仕組み)を設備や帳票に貼っておけば、読み込むだけで該当のフォームを呼び出すこともできますし、紙の帳票を写真に撮ってOCR(オーシーアール/写真の文字を読み取ってテキストに変換する技術)で読み取れば、手入力そのものを省くこともできます。紙に書く手間も、後で入力し直す手間も、まとめてなくなります。手で打ち直す場面が減るぶん、数字や文字の打ち間違いも減らせるはずですし、記録の負担そのものも軽くなることが期待できます。現場は「仕事がひとつ減った」と感じやすくなり、管理職の皆さんも「記録が正確でリアルタイムに見える」という実感を得やすくなります。どちらも得をする、数少ない改善です。

道具選びも、同じです。実は私自身、タブレットPCを渡されて働いた経験があります。ただ、「何かあったときは写真を撮って」と言われても、タブレットをいつも持ち歩いているわけではないので、そのたびに席まで取りに戻ることになります。その点スマホなら、ふだんから身につけておけますし、細かいところまで寄って(アップで)撮ることもできます。そして何より、緊急時に、その場で連絡を取る手段にもなります。同じデジタルの道具でも、現場の動きに合っているかどうかで、活きるか眠るかが分かれる。私が「タブレットではなくスマホを」とお願いするのは、この経験があるからです。

大きな改革を最初からやる必要はありません。まずは、現場がすでに「面倒だ」と感じている二度手間を、ひとつだけ見つけて消してみる。それが、遠回りに見えて一番早い順番だと、私は思っています。

上から降ってくる改善は仕事が増え、現場から始める改善は仕事が減る、という対比の図解

実際に、こんなことができます

「AIと言われても、何から始めればいいのか想像がつかない」という方のために、私自身がAIと一緒に作って、現場目線で使っているものをいくつかご紹介します。特別なシステムではなく、AIに手伝ってもらいながら、現場の困りごとをひとつずつ形にしたものです。

どれも、大きな予算をかけたシステムではありません。フォームひとつ、チェックリストひとつから始めています。「うちの現場でもできそうだ」と思っていただけたら嬉しいです。

そうは言っても、と思われた方へ

ここまで読んで、いくつか反論や不安が浮かんだ方もいらっしゃると思います。三つ、先回りしてお答えします。

①予算も人もない、という声
その通りだと思います。だからこそ、最初から全社導入を目指す必要はありません。ひとつの係、ひとつの帳票から始めれば、必要な予算も人手も最小限で済みます。先ほどの調査で「効果が見えない」ことが一番の壁だったのなら、まず小さく試して、効果を目に見える形にしてしまうのが一番の近道です。

②情報漏えいが心配、という声
これも当然の心配です。東京商工リサーチの2026年6月16日公表の調査(有効回答6,942社)によると、就業中の個人スマホの使用を「特に禁止していない」企業は76.8%にのぼります(同じ調査で、直近3年にSNS投稿による情報漏えいを経験した企業は2.2%でした)。つまり多くの職場では、すでに個人のスマホが管理されないまま持ち込まれているのが実態で、その状態こそ、一番リスクの見えにくい状態だということでもあります。だからこそ私は、会社がきちんとスマホを用意して、管理下に置くほうがむしろ安全だと思っています。AIに機密情報や個人情報を不用意に入力しないという注意点は、総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」第1.1版(2025年3月28日公表)にも明記されています。これは導入を止める理由ではなく、導入するときに決めておくルールの話です。予算がすぐに準備できない場合は、次善の策として、ルールを決めて私物スマホを活用する方法もあります。

③現場が反発するのでは、という声
正直に言うと、私の周りの技能職は、AIで仕事が減るとはあまり心配していないように見えます。自分の腕で作業をしているからです。雑務が減るのは、むしろ歓迎されるはずです。

ただ、労働政策研究・研修機構(JILPT)の2025年5月の調査(労働者約2.2万人が回答)では、AIによって仕事がなくなることを「心配している」人が、2年以内で43.7%、10年以内で50.7%にのぼりました。これは現場か現場以外かを区別しない、働く人全体の数字です。ここからは私の想像ですが、不安の芯は、現場よりも「自分の仕事が減るかもしれない側」にあるのかもしれません。「現場が反発するのでは」という心配も、実際に現場の声を聞いてみないと分からない部分だと思います。導入の前に、現場に困っていることを聞いてみてください。反発どころか、歓迎されると思います。

そもそもAIは、現場の判断を奪う道具ではありません。転記や入力、報告書作成といった雑務を減らして、人にしかできない判断や気配りに時間を戻す道具です。なお、防爆エリア(引火や爆発の危険があるため、火花の出る電子機器を持ち込めない場所)など持ち込めない現場もあり、一律でなく現場ごとに考えることも大切です。

明日からできる、3つのこと

最後に、管理職の皆さんに、明日から始められることを三つご提案します。

  • ひとつの係、ひとつの帳票でスモールスタートする — 全社導入ではなく、一番二度手間が多そうな帳票をひとつだけ選んで試してみてください。
  • 現場のスマホ事情を一度、表に出す — 私物スマホが黙認のまま使われていないかも含めて、まずは実態を可視化してください。できることなら、そのまま会社支給のスマホへ切り替えるのが一番です。予算がすぐに用意できない場合は、ルールを決めたうえで、私物の活用は次善の策として位置づけてください。
  • AIに入れていい情報、ダメな情報を最初に決める — ルールを先に決めておけば、現場も安心して使えます。
明日からできる三つのこと。帳票ひとつで小さく試す、スマホの使われ方を表に出す、AIに入れていい情報を決める

おわりに

現場は、変わることに反対しているわけではありません。むしろ、二度手間や面倒な作業から早く解放されたいと思っている人の方が多いはずです。あとは、順番だけです。空想の改善を上から降らせるのではなく、現場が既に困っていることから、小さく始めてみてください。それだけで、現場の景色は変わっていくと、私は思っています。

以上、ご安全に!!

出典

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